トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅大掛かりな5WAYマルチシステム

大掛かりな5WAYマルチシステム



 夢のようなリスニングルーム


 数年前に新築と同時に立派なオーディオルームを完成させたHさんです。その広さは40〜50畳、天井高に至っては7メートル前後あるでしょう。私が今までに訪問したお宅の中でもトップスリーに入る屈指のスケールです。Hさんは地元広島ですので何度か当社に足をお運び下さった事はあります。しかし、実際に本格的な仕事を頼まれたのは今回が初めてです。

 取り巻きのオーディオ仲間の方達と一緒になって音作りをなさって来られたようですが、どうしてもイメージする音に近づかないと見たのでしょう。スーパーウーハー用のアンプを新調なさるのを機に、私に託してみようと電話を下さったのでした。

 そのHさんは私より20ほど歳上ですからオーディオ創世記の世代です。そんな甘いも酸いも知り抜いている方の耳を満足させられるだけの音を作り出せるのだろうか、ちょっとだけ不安が交錯しました。


 職人としてのスピリットがメラメラと燃えてくる


 しかし、現状の音を聴かせて頂いた瞬間にそんな意識はどこかに吹っ飛びました。消防士が火の中に飛び込んで行くような使命感にも似たモードに切り替わるのです。音の職人としてのスピリットがメラメラと燃えてくるのが自分でも分かるんです。

 何故ならばマルチチャンネルシステムとしての音が全くといってよいほど機能していなかったのです。76センチスーパーウーハーと38センチダブルウーハーの巨大なシステムなのに迫力がまるでありません。それを認識出来る音量まで音を上げようものなら、ある帯域の音がやかましくなりそれ以上音量を上げる事が出来ないのです。部屋の空気が動いている様子はみじんも感じ取れません。

 不思議な事にウーハーユニットとホーンドライバー、そしてツイーター、スーパーツイーターとメカニカルフェーズは完璧に合っているにもかかわらずです。物凄く良く出来ているところとそうでないところがあるからこうした音になるのでしょう。

 ただ肝心な部屋とスピーカーとの位相である「カイザーウェーブ」は合っていません。一気に集中力を高め、直接音であるスピーカーの出音と音の反射パターンを耳に取り込みます。特に左のスピーカーが谷間にあり、右はほぼ良い山に近いところです。

 右と左のスピーカーが部屋の空気を動かすに当たって、押しと引きのタイミングが完全に逆になっているのです。ここが最大のボタンの掛け違えポイントと私は診ました。グリーンのビニールテープを借り、左のスピーカーを「カイザーウェーブ」に乗せるべく位置を事前にHさんに告知した上で床にマーキングします。その距離41ミリと読みました。

 動かしました・・・。

 その音の変わりようにHさんはビックリ!。

 でも私の耳にはまだ何かがおかしい?・・・。


 写真をクリックしてZOOM UPにしますと、左のスピーカーの置いてあった跡がクッキリと付いているのをご覧頂けます。


 原因探しも根気負け


 右のスピーカーはまるでフルレンジかと思えるぐらい一体感があるのに、左のドライバーの音がやけにうるさいのです。チャンネルデバイダーの目盛りを見、パワーアンプのゲインも見ているのですがその原因を特定出来るには至りません。

 ラックには機器類がリスナー側から見てお尻を見せるようにセットされているものですから、裏に回らなければなりません。音を聴きながらつまみを回すということが出来ないのです。

 気になるのでチャンネルデバイダーに収まっているICモジュールを見てみると、低い周波数と高い周波数がセオリーとは違って、左側に高い周波数モジュールが入れられてあるのです。それでも、それに準じた結線がなされていさえすれば問題はありませんが、一旦頭の中で「これは逆だからこうして結線して・・・」と考えながらやっていると必ず間違いを犯してしまいます。

 そんな状態ですから、間違い探しをする気も起こりません。調整や手直しではなく、大変ではあっても全てを解体し組み直した方が良さそうです。そこで、Hさんに提案です。「この際ですから、機材が正面から見えるように思い切って基本に忠実なレイオアウトに変更しませんか?」。そうすれば操作性は楽だし、結線も正面から見えませんので一石二鳥です。


 急きょ予定変更の解体組み直し


 メモ用紙をお借りし、信号の流れの順に機材を配置するイメージ図を描きながら説明します。クロスポイントは70Hz、800Hz、5000Hz、12500Hz、本来なら5台のアンプでいいのですが、低い帯域から5kまでの3つのステレオアンプはBTL結線にしていますので全部で7台あります。

 スーパーウーハーに限っては1発なのにステレオであったりしますので、L、Rの信号をモノラル化してやる必要もあり間違いなく結線するだけでも結構大変です。

 おまけにインシュレーターを活かす為にアンプの下の付属の脚が全部外されておりますので、ラックからの機材の出し入れには一苦労。

 理想の場所に機材を配置した上で結線をし始めるとあるところで線の長さが足りない事態が生じてきました。今日は音出しをすることが出来ません。Hさんの明日の仕事にも差し支えるということで、今日のところはレイアウトを完了した時点で引き上げる事にしました。

 この続きは翌日に持ち越です。





 二度目の訪問


 初日の段階でとりあえず音出しだけは終えたかったのですが、時間の都合という事もあって翌日の持越しとなりました。ケーブルの長さが足りなかった部分をお持ちしたピンケーブルで結線しようとしましたところ、XLRケーブルとピンケーブルとは同時出力にならず結局用意した物の出番はありませんでした。

 仕方ありませんので届かないアンプはラックから出して床に直置きで臨時結線します。昨日機材のレイアウトを信号の流れ順に整然と配置していたので、配線作業はすこぶる快調に進みます。一呼吸おいた事もあって頭も冴えているのでしょう。正しく結線されているかどうかをチェックするのに低い方のユニットから順に音出しします。左チャンネルはO.Kです。次は右、これもO.Kです。先ずは正しく結線出来ている事の確認は取れました。


 調整の速さはカーオーディオの経験から得たもの


 肝心なのはこれからの作業です。セオリーに則ってパワーアンプのアッテネーターはどれも全開にして、チャンネルディバイダーのアッテネーターで分割された各帯域のレベルを合わせます。元々は4ヶ所とも12dbのスロープでしたが、適材適所によって12dbと18dbを巧みに使い分けるよう聴感をたよりに決めます。

 この段階で両スピカーの真中に音がピタリと定位しました。

 「如何ですか?」。

 『この部屋でこんなに揃った音を耳にするのは初めてです』。

 音の良し悪しは別にして、とりあえずマルチシステムが正しく機能するスタート台に立てた訳です。

 調整に要した時間はわずか3分ほどでしょうか・・・。

 何よりもこの早業にHさんは驚かれたようです。

 これは私のデモカー(シトロエンXM)のインストール時の経験から身に付けたものです。何十回となく調整しては聴きを繰り返した執念にも近いものが陰にあるのです。ピュアーオーディオのマルチの音合わせはスピーカーが上手く組まれていますので、各ユニットが遠く離れて取り付けてある車に比べるとすごく楽です。


 実演の伴ったクリニックの開始


 でも、これだけの部屋とシステムで鳴るであろう見込みの音とはあまりにもかけ離れた寂しい音しか出てくれません。それでもHさんはご満悦の様子です。ここで私はハタと考え込みます。下見状態の今回は用意できている音の小道具は幾らもありません。コネクターの形状が違っていたりで電源周りも下手に触れません。

 一発で飛躍的に音質向上が見込めるところはどうやらデジタルケーブル(DIG-B7/53,000円)が一番のようです。これは効果絶大でした。圧倒的に情報の量が違います。次はちょっと危険なのですがDAコンバータープリ間のピンケーブルをMusic Spirit Basic1に変えてみます。”一気に霧が晴れたよう”という形容をオーディオの場合良くしますが正にその言葉がピッタリです。これでワイヤリングに問題ありとの結論が出たようです。


 その名の通り音はベーシック


 Basic1を使って結果が上手く行かなかった場合は他のどこかに問題ありと疑って下さい。

 それ位ニュートラルバランスのケーブルなのです。

 一番安くて一番凄い奴。

 また、何でもない音でもあるのです。

 音の良し悪しが忠実に再現されます。

 まるで音の調整の腕前を見られているといっても良いでしょう。


 この先のプランニングの説明


 何分にも機材の数が多いものですからそうそう高価なケーブルを使うわけにも行きません。このBasic1(25,000円/0.9kaiser=94.5cm)は当社の製品の中では一番コストフォーバリューが高いのです。このケーブルに信号ラインを全部やり変えて欲しいとの要望を頂きましたので、ここで将来像を図にし、説明させて頂きます。

 この十数年Hさんは機材の買い替えはほとんど無く、今ここにあるアンプ類も全て電源ケーブルが着脱出来ないタイプの物です。ケーブルに至っても同時期に組まれたままのようですから、ケーブル全盛時代も素通りして来られたようです。そう考えますと、ケーブルの迷路に迷い込まなくてすんだだけでも大変幸運な方かもしれません。そして、音が良くなる度に『このノウハウが一番価値なのですからご損のないように遠慮なく言って下さいね』と優しい言葉をかけて下さるのです。

 このシステムの持つポテンシャルからすると今の音で15点。信号系をBasic1で揃えた時点の第一段段階で30点。次の第二段階でスピーカーケーブルも同じBasic1にしたとしすると約50点。第三段階は電源周りの整備で70〜80点。ここまでやれば私が今まで手掛けたセッティングの中でNo.1の音になる可能性を秘めているように思います。それでもまだ20点余力を残している感覚です。


 完成が楽しみ


 優しい言葉をかけて下さる事が私から凄いパワーを引き出してくれるのです。まるで百戦錬磨の老練な監督の下でプレーしているような気分です。こうしてみると相互信頼こそが最良の音を生み出す源なのでしょう。最下位から一気にトップに躍り出るかもしれません。

 何より部屋が凄いです!。

 ブッチギリの良い音が出て当然の作りです!。

 その分ワイヤリング類や機材にあまりコストが掛かりません。

 東京に戻って全て準備するのに1月近く掛かります。

 Hさんのマルチシステムを究極のセッティングを完成させてみます。

 咲かないかもしれないと思われていた大輪の花が咲くのももうすぐそこです。
 
 次回を楽しみにしてください。





 三度目の訪問


 約3週間の準備期間の後、ワイヤリング関係を全て一新する今回のセッティングプランですが、新たなオーディオラックを用意しておられたのでもう一度レイアウトプランを練り直します。若月製ですがヤマハのGTラックより一回りデッカイです。左右のスピーカーの間に設置する機器は全部で9個なのでワンボックスあたり3台ずつで丁度収まります。スケッチを描きどの機材をどのグループにするのかを決めます。



 電源周りの強化


 家に例えるならば一旦解体して立て直すぐらいの大掛かりな仕事です。先ずは200Vから100Vへのステップダウントランスのモディファイが基礎工事部分の仕事になります。容量も1Kから順に2k、3k、4,7kとまちまちですが、要は使い方次第。最適な働き場所を用意してやればむしろ好都合です。


 音楽の流れが良くなるように1次側には1,8kaiserの長さを用意し、2次側は0,9kaiserにします。どのトランスもAC-RG2と同じ仕様のケーブルに変更します。その2次側のエンド部分にはHUBBELL-8300/BROWNをちょっとお粗末ではありますが塩ビの外付け用ボックスに収めました。ここまでを屋内配線として考えます。その先にナイアガラJr.Uのタップがが来て各機材に配電される仕組みです。


 ■1kタイプ
 CDトランスポート、DAコンバーター、プリアンプの3機種です。


 ■4.7kタイプ
 70Hz以下のスーパーウーハー用にモノ仕様、70Hz〜800Hzのウーハー用にBTL仕様で2台。信号の流れに沿って下から順に、すなわち低い周波数の受け持ちアンプから順に1、2を飛ばして3、4番に差し込みます。ラックの下に収めた3台のアンプです。


 ■3kタイプ
 チャンネルディバイダーと800Hz〜5,000Hzのホーンドライバー用にBTL仕様として使うアンプ2台。ラックの中段に納めた機器類です。


 ■2kタイプ
 チャンネルディバイダーと5,000Hz〜12,500Hzの高音、そして12,500Hz以上のスーパーツイーター用のアンプとなります。ラックの上の機材3台です。
 

 以上のように練りに練った整然としたフォーメーションで音楽再生に挑めますので、いかなる場面に対しても崩れる事無く万全です。まるでオーケストラの陣取りとそっくりです。








 信号系の配線


 結線を待つMusic Spirit Basic1ケーブルの精鋭達。その長さは0.9kaiserを基本の1とすると2倍長の1.8、そして2.7、3.6、4.5、5.4kaiserまでの5オクターブにも渡る和音構造の音の彩(いろどり)を持つものです。この「カイザー和音」構成こそが音楽性豊かな表現の元になります。

 奥の手であり切り札としてホーンドライバーの受け持ち部分の信号ケーブルだけはローゼンクランツのPIN-RGB2を余分に用意してきております。全員が同じように揃っている事が前提ですが、その中でも主役を決めると音のストーリーがビシッと締ります。言うなれば主席奏者の存在と思って下さっても構いません。


 世の常識を超える時の勇気と葛藤


 しかしこのオーディオラック裏のループを成した配線をエレクトロニクス技術者が見たなら、音を聞くまでも無く『必要以上の長さは百害あって一理なし、ましてやケーブルがトグロを巻くなんてとんでもない!』と聞く耳を持たず一笑に付すると思います。

 でも私の場合はそれがまるで体内を張り巡らしている血管や神経系統のように必然に見えるのですから不思議です。もしも私が「基盤配線デザイナー」なら同じように「カイザー和音パターン」で設計するでしょう。

 これは「音と音楽の違い」をリサーチしてきた身の私の思いです。教わった訳でもなく身体で感じ得たものです。その結果に至るまでにはいつも「自分の感じている事、考えている事は間違いではないのか?」との自己否定を忘れないスタンスで我が信じる道を歩んでおります。


 インシュレーターのレイアウト


 独自に用意されたインシュレーターが実に良く出来ていますので、この度はローゼンクランツのインシュレーターの提案は控える事にします。そしてそれらが最高の能力を発揮するべく床に並べてシュミレーション展開を図ります。何を、何処に、どのように使うのかによって音は大きく変わります。そんな小さな使いこなしのノウハウのひとつひとつの積み重ねが音楽表現の豊かさに大きな違いとなって現われるのです。

 木のインシュレーターの上部に10円玉位の銅板を貼ったのがありますが、これはよく考えられていて中々の優れものです。重いアンプ等よりは比較的軽めの機器、特に今回の場合、チャンネルディバイダーには打ってつけです。


 5WAYマルチ/カイザーセッティングの完成です


 「Hさん、そろそろ完成しますので、最初にかける記念すべきディスクを決めていて下さいネ」。

 『私には拍手の音が大切なんです!』。

 『演奏における聴衆の満足度の様子がよく分かるから・・・』。

 『カルテットあたりを好んで聴きます』。

 『特にチェロの音が好きです』。

 オーディオ的には決して音の良いディスクではありませんが、演奏は素晴らしく、曲の終わった後の拍手は聴衆の感動が充分に伝わってくるものでした。繋いだばかりの状態においては上出来ですがそれでも持てる実力からするとまだまだです。


 いろんなディスクでテスト


 重低音の入った「舌を噛みそうですが、”ツァラトゥストラはかく語りき”」を掛けて頂けませんか?。

 管楽器のファンファーレに始り、オルガンの音、大太鼓、凄い音がします。

 これこそ生にすり替わる音と言うのでしょう・・・。

 私の開いた口はあんぐりとそのままです・・・。


 「次はオペラの”こうもり”をお願いできますか?」。

 『すぐに見当たらないから、プッチーニでいいですか?』。

 「ハイ結構です」。

 女性の声、男性の声。

 「・・・うう〜ん!、これは駄目だ!」。

 楽器の音では騙せても、人の声はすぐにばれてしまいます。

 各スピーカーの音が気になり、人の声と認識するまでにはちょっと距離があります。

 チャンネルディバイダーのレベル調整のやり直しです。

 「次は行進曲で、”星条旗よ永遠なれ”をお願いします」。

 76センチのウーハーがリズミカルに小気味良く鳴ってくれるかどうかです・・・。

 手を振って腿(もも)を上げて軽やかに行進です。

 こんな大きなユニットがどうして・・・?。

 にわかには信じられないような軽快さです。

 「ステレオとは何なのか!?」。

 また、また分からなくなりました。

 ある意味嬉しい誤算です。正直言ってここまで良く鳴ってくれるようになるとは思っていませんでした。「振動の時間軸」、そして「電気の時間軸」と「空間の時間軸」がステレオの命の3本柱と信じてやって来たのが正しかったと改めて確信しました。この先、Hさんのシステムがどこまで良くなるのか無限の可能性を感じます。


 次回が楽しみ


 ひと通り色々なディスクを聴きましたが、刻々とこなれて行く様子が分かるほどに調子を上げつつあります。ワイヤリング関係全てが一新された訳ですから当然といえば当然です。さきほど人の声に違和感を覚えた音もまとまりのある音になってきました。この調子で1ヶ月後にはどんな音に変身しているのでしょう。次回広島に帰った時が楽しみです。

 Hさんのこの部屋の中には封の切られていないCDの入ったダンボール箱が沢山あります。聴きたくて買ったディスクばかりのはずなのに、耳に刺すようなキツイ音のせいでずっと聴けないでいたのです。

 正真正銘これが正直な結果なのです。

 これからはステレオのことは忘れてお好きな音楽をたっぷりと聴いてください。

 この度はこれだけの仕事を与えて下さって感謝しています。

 有難うございました。





 四度目の訪問


 今回のオーディオクリニックは人間の身体でいうと生きるか死ぬかの大手術を行ったようなものですから、適当な間隔を持ちながら慎重なチェック体制の予後であるべきです。幸いにも広島には定期的に行き来しますのでH様の場合その度に訪問可能です。

 約1ヶ月ぶりに聴くこの大型システムの音ですが、チェロやバイオリンの細かな違いの部分がよく出るようになっていました。申し分ないと言っても良いレベルです。これだけのシステムは滅多に相手出来ることではありませんので、私にとって大変貴重なデーター取りになるのです。

 こうした大型システムの難しさは瞬間に炸裂するはずの音が微妙にずれてしまう点です。実物大の音を求めようとすると質量が大きいだけに時間軸に対する反応の鈍さが問題となります。また、速さに有利な小型スピーカーでは迫力に欠けるし、どうしても二律背反を避けられないのが通例です。

 でもこのシステムに限ってはそうした過去のジレンマとは”さよなら”が出来そうです。

 大型なのに実に速いのです。

 寸分の狂いもないほどのシステムに生まれ変わりました。


 無駄な買い替えと必要な買い替え


 欲を言えばキリがありませんが、今の音にふくよかさと潤いがもう少し欲しいところです。これをアンプに目を向ける方法もありますでしょうし、ケーブルに目を向ける方法だってあるでしょう。また、インシュレーターに託す方法だってあります。

 今回のプランは電源周りに一極集中の予算配分を取りましたので、その他の分野においては2段階3段階のステップアップが可能なように構築してあります。特に5ウェイマルチともなりますと、何をやるにしてもその数が多いものですから費用が大きくかさみます。

 その為にも無駄な買い替えは極力避けるべきです。子供の成長に伴って必要となる衣服のように最初から計算の中に入っている買い替えは無駄とは言いません。その解釈と違いをシッカリと認識しておくべきです。


 瀬踏みするような気持ちでテスト


 今日はピンケーブルを2本テストに用意しております。

 PIN-RGB2/\70,000とPIN-RL(Limited)/\150,000です。

 コンバータープリ間でテストをしてみようと思っておりますが、Music Spirit PIN-Basic1の前に持ってきて音詰まりが起きないかだけが心配です。いきなりRLの方からテストしたのですが危惧したデメリット面は出ませんでした。これはマルチシステムだから音抜けに対してロスが生じなかったのかもしれません。

 その速度面でのギクシャクさえ出なければ音質面には間違いなくプラスに作用しますので、これぞまさに「乾坤一擲」の働きです。一にも二にもなく採用決定となりました。ソリッドでクールなアキュフェーズサウンドにふくよかさと潤いが足された瞬間でした。





 五度目の訪問


 最近は東京に居ることの方が多いので、『広島に帰った時は声を掛けて下さい』と頼まれております。訪問する度に何か一つずつ音の改善を図って行きたいというのがHさんのご希望です。このマルチシステムと格闘すること30年以上。

 音楽の思いは描けども、そのイメージとはかけ離れた音しか出なかった苦悩の30年でもあった訳です。決して歌おうとしなかったそのカナリアが、突如として歌い始めたのですから、凝縮した時間と共にその喜びを心おきなく味わっておられるのでしょう。


 ACケーブル交換可能式に順次改造


 前回の試みは低音域を受け持つアンプのACケーブルが着脱交換可能なように改造をお勧めしましたところ、どうせならと中音域用のアンプも同時にやる事になりました。BTL結線にしておりますのでその数は計4台になります。

 改造後のアンプにはレッドラインシリーズの最高級ACケーブル(RL-Maximum)を導入。壁コンセントから電源タップまでは申し分ないほど充実した構えを誇っておりますので、それが更に生きるようになるはずです。

 予想通り全ての楽器の音に生々しさが出てきました。特にバーバーの弦楽の為のアダージョにおいては、わずかずつクレッシェンドしながらの高まり感が素晴らしく、特に下支えするコントラバスやチェロの実在感が素晴らしいです。

 このように今回の試みは堅実な形で成功を収めましたが、このモンスターシステムの真の実力を引き出すには、全ての機器の足並みを揃える事こそが最重要課題であると説きました。





 六度目の訪問


 本来ならば一番最初に試みたかった事ではあったのですが、残念にも全ての機器がACケーブルの交換が出来ないタイプだったので最後の最後になってしまったのです。


 プリアンプ専用電源ケーブルを推薦


 システムをコントロールするプリアンプ専用電源ケーブル”AC-Music Conductor”を導入することは出来ないものかとずっと考えていましたので丁度良い機会となりました。

 現在使っている『C-280Lと入れ替えて楽しんでみたい』と、お蔵入りしていたC-200Xなるプリを出してこられたのです。久しぶりに見るアンプですが、そのアンプは私に向かって物凄いオーラを発します。何がそうさせるのかはすぐには判断出来ませんでしたが、とにかく最近のアンプとは次元の違うエネルギーです。

 そんないきさつでC-200XをACケーブルが着脱できるようにお預かりしました。都合の良い事に2ブレードではありますがソケット式になっておりますので3ブレード式に簡単に交換できます。

 

 それにしても素晴らしいプリアンプです。マスターテープに近いリアリティーです。この音を聴くと最近のアンプの音はか細いです。各機器のタイミングを強制的に揃えてしまうMusic Conductorの威力とC-200Xのリアルさによって気になるところが出てきました。



 音のにじみの原因探し


 テンポやリズムはバッチリなのに音ににじみがあるのです。今度は別の犯人探しが始ります。4つあるリボンツイーターに目をつけました。それ以外の帯域の音は出さずに鳴らしてみますと、右と左の音量が物凄く違います。今度は更に片チャンネルだけで聴きますとハッキリと音量差が分かりました。よくよく見るとその内の1個は中央部あたりから曲がっております。



 「心当たりありますか」とお尋ねしますと、地震で落ちた際に曲がったのだろうとのことでした。それが原因かどうかは分かりませんが、同じ物を並列に繋ぐとわずかな違いも出てしまうので、二個使用というのはよほどのマッチングが取れていない限りは難しく、危険が付きものです。


 仕方なく4つとも全部外してその内マッチドペアーにして、各チャンネル当たり1個に減らしました。これは効きました・・・。左右がバッチリ揃って各楽器の音が手で掴めそうなほどの立体定位が誕生したのです。約30年ほど前の製品ですが、このC-200Xは紛れもなく日本の生んだプリアンプの名機といえます。

 クラシックしか聴かないはずなのに、珍しくアルディメオラのディスクが目に入りましたのでかけてみました。これほどの大型システムで聴くのは初体験です。「うわっ、うわっ〜、凄い、凄い・・・」呆れるほどの超絶技巧のテクニックの嵐。凄いギターの音になりました。





 七度目の訪問 超特大スピーカースタンドとGIANT BASE


 GIANT BASE導入に合わせて、38センチダブルの大型スピーカーの専用スタンドをワンオフで設計しました。4本脚にするか、6本脚にするか考えましたが、インシュレーターで3点支持した場合にたわみが大きく出そうなのと音の事を思うと迷う事無く6本脚に決定です。


 今までは直径十数センチほどのヒノキの丸太棒で3本支持でした。床は無垢のパイン材で立派な申し分のない物ですが、スピーカーの箱とスタンドと床の3種類ともソフトな木質なものですから全体に音が緩めです。

 スタンド材が単なるずん切りですから、円形の面の三日月形の一部分しかスピーカーにも床にも接触しないので、いつもスピーカーの箱はガタガタして不安定状態にあります。これでは力強い音もデリケートな音も再現出来ません。


 今回の音のグレードアップの狙いはスリリングな緊張感や激しさの表現にあります。その為にはもっともっと金属の力を借りなくてはなりません。

 スピーカーの下にインシュレーターのBIGU、スタンドの脚の部分は6ミリ厚のステンレス、そして高さ調整可能な直径52ミリのずっしりとした無垢の真鍮製スパイクで出来ています。

 その大型スタンドを受けるのが今回の主役であるGIANT BASEであります。こうしてスピーカーと床との間に3つの金属の精鋭達が新たに仲間入りしました。

 このシステムの調教を手掛けさせて頂いて2年強になります。その試みた数はほぼ10回を数えますが、今回ほど根こそぎ音が変わったことはありません。地味に重ねて来た今までの努力が一気に開花したのです。

 H様には多くの予算と時間を信頼して託して頂いておりますので、私の命に換えてもお応えしなければならない強い信念が出した音であります。

 『これでイメージする音にまた一歩近づけた』と喜んで頂けました。


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