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その17  「受胎のお告げが、天空高く立ち昇る」


 この部屋の写真をご覧頂いただけでお分かり頂けると思いますが、吸音材に関する物はと言うと、フロアーに敷かれた2畳ほどのムートンとスピーカー側にあるカーテンのみです。両側面と天井、そして背後の三方はクロス張りで全くのプレーンな状態です。

 今でも相当ライブ気味である事は分かりきっているのですが、あえて、吸音対策は出来るだけ採らないでテストして行こうと思っています。昨日お客さんがお見えになって、これだけライブな部屋なのに、出てくる音には全く定在波がなく、音楽を構成する個々の楽器が見事に聞き分ける事が出来ると驚いておられました。


 その個々の楽器といっても、音の性格の違う楽器の事ではなく、よく似た音色の物であっても聞き別けが出来るのです。すなわち、スピーカーから発せられた「オリジナル音楽波」の音像が、何にも邪魔される事無く、浮かび上がったようにリスナーの耳に届くのです。この事を”その9”の所で「ピンスポットを当てたようだ」と表現したのです。

 また、みじんも混濁しないその音の透明度は、高い山の雪解け水が何年も掛かって岩肌を含浸しつつ、山裾に湧き出ずる水と形容したらいいでしょうか。とにかく半端ではない透明感のある音なんです。


 ご持参されたソプラノ独唱、シンフォニー等、何枚かのディスクを聴かれた後に、「何かお勧めのディスクを聴かせて頂けませんか?」と言われました。ローゼンクランツのブランドの命名の元になった曲「ビーバーのロザリアのソナタ」を迷わず聴いて頂きます。

 これは、東京へ来てからは一度も聴いていないものですから、お客さん以上に私自身の方が興味があります。思い起こせば、「この曲をどこまで素晴らしい音で鳴らす事が出来るのか」が、私の永遠のテーマでもあるのです。ミラクルサウンド・スクリーンの開発とて、この事が元になっているのは言うまでもありません。


 いきなり、ヴァイオリンの音が背中から頭頂部を突き抜け、

 天空高く立ち昇る様に受胎のお告げから始まります。

 全身の産毛が逆立つのが分かるリアルな感動です。

 揺り動かされるほどの歓喜が体感出来るのです。

 そうそう、この震えるような歓喜が欲しかったのです。

 ミラクルサウンド・スクリーンの真骨頂を見た思いがします。


 ローゼンクランツのトップページの絵がそうです。

 生命誕生の喜びを顕しているのです。

 これこそが、ローゼンクランツの目指す音のテーマなのです。

 今日初めて、その志を成就出来そうな感触を直に感じ取ることが出来た瞬間でした。


 そこで、このディスクについて少し詳しく解説致します。ヴァイオリンと通奏低音のための15のソナタ形式になっており、その曲の内容はと言うと、キリストの生誕から十字架を背負っての処刑、そして復活、昇天と言うストーリーによって構成されています。

 ARCHIV  POCA-2556/7

 ハインリヒ・イグナツ・フランツ・ビーバー(1644〜1704)は、17世紀における最も優れたヴァイオリン奏者の一人であり、ヴァイオリン音楽の作曲家である。ビーバーが書いたソナタをはじめとするヴァイオリンのための作品は数多いが、その中で、ここに収録された「ロザリオのソナタ」はビーバーの最高傑作のひとつとして知られるだけでなく、バロック時代のヴァイオリンの演奏技法がいかに高水準のものであったかを教えてくれる代表的な作品なのです。


 喜びの5つの秘蹟
1. ソナタ  第 1番 ニ短調 お告げ
2. ソナタ  第 2番 イ長調 聖母マリアのエリザベト訪問
3. ソナタ  第 3番 ロ短調 キリストの降誕
4. ソナタ  第 4番 ニ短調 イエスの神殿への拝謁
5. ソナタ  第 5番 イ長調 神殿における12歳のイエス

 苦しみの5つの秘蹟
6. ソナタ  第 6番 ハ短調 オリーブの山での苦しみ
7. ソナタ  第 7番 ヘ長調 イエスのむち打ち
8. ソナタ  第 8番 変ロ長調 いばらの冠をかぶせられ
9. ソナタ  第 9番 イ短調 十字架を負ったイエス
10. ソナタ  第10番 ト短調 十字架にかけられたイエス

 栄光の5つの秘蹟
11. ソナタ  第11番 ト長調 キリストの復活
12. ソナタ  第12番 ハ長調 キリストの昇天
13. ソナタ  第13番 ニ短調 聖霊降臨
14. ソナタ  第14番 ニ長調 聖母被昇天
15. ソナタ  第15番 ハ長調 聖母マリアの戴冠

パッサカリア ト短調


演奏 ムジカ・アンティクワ・ケルン
 ラインハルト・ゲーベル(ヴァイオリン)
 フェーべ・カライ(チェロ)
 コンラート・ユングヘーネル(リュート)
 アンドレアス・シュペリング(チェンバロ、オルガン)
 ARCHIV  POCA-2556/7 

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