トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅PMC/BB5はどれだけの実力を持っているのだろう?

PMC/BB5はどれだけの実力を持っているのだろう?



 無骨なデザイン


 10年ほど前の事ですが、PMCのBB5をオーディオ雑誌で初めて見た時に、「なんと無骨なデザインなんだろう?」と、驚いた印象があります。

 「音さえ良けりゃ、格好なんてどうだっていいんだ!」と、いう人は別ですが、この姿を目にしながら音楽を聴きたいとは普通のケースなら思わないでしょう・・・。しかし、「見た目は悪いわ!音も悪いわ!」では売れるわけないので、きっと、どこかにこのスピーカーにも音の魅力があるのでしょう。

 音の相談を数多く受ける中で、BB5を使っているという人に過去に2〜3人出会いました。縁さえあれば、本気でいつか調教してみたいと思った時もありました。


 「カイザーゲージ」の威力は凄い!


 この最近のことですが、『BB5が凄く良くなった!、これほど音質改善効果の大きな物は無い!』と、「カイザーゲージ」を2個買って頂いた方から、お誉めの電話を頂きました。会話が進むにつれ、今度はこちらがビックリさせられました。その他にもJBL/4350とクリプッシュのコーナー型スピーカーを持っているというのです。

 どんな大金持ちの方かと思いきや、普通のサラリーマンだと仰る。この趣味1本に予算を割いて、音楽を楽しんでいるとの事でした。

 スピーカーとの間に機材を置けば、大画面スクリーンの下部に邪魔をするので、床に鋸を入れて低くしたというのですから思い切った事をする人です。『そんな馬鹿っぷりを見ると同時に、クリニックに来てくれたら嬉しいのですが』と相成ったわけです。


 信州の山奥のきれいな高原にYさんのお宅はありました。駐車場を改造して作ったリスニングルームは、防音は効いてはいませんが、近所に民家がないのでいくら大きな音を出しても平気です。


 見た目と正反対の音で鳴っていた


 さてさて、そのBB5の音は如何だったでしょう・・・。

 我が耳を疑うほど想像とはまるっきり反対の音でした。

 見た目は無骨なのに、

 出てくる音はどこのお嬢さんかというほど上品で、

 こじんまりした奥ゆかしい感じの音なのです。

 姿は男なので、オカマのような印象を持ちました。

 何でこんな鳴り方になるのだろう・・・?


 音の分析と対策


 じっくりと音を観察しますと、奥に、奥にと音が逃げて行っているのです。これが奥ゆかしく感じた原因でした。具体的にはスピーカースタンドとして組まれた木の素材の響きの方向が、不運にも反対向きだったのです。方向性を管理しないで作られた製品は、バクチ的要素が満載です。

 クリニックの第一弾は木製のインシュレーターを外し、スピーカースタンドを前後180度ひっくり返した状態で聞いて貰いました。今まで後ろに逃げていた音が生まれ変わったかのようにシッカリと前に出て来るようになりました。この時点でYさんにとっては目からうろこ状態だったようです。


 次に上品に感じた原因は、スピーカー台も、インシュレーターも木製を使っているので、木→木→木→木と音が萎えてしまっているのです。まるで、怪我をしないように作られた子供のおもちゃの刀のようです。それは、きつく、硬く、ストレスのある音はしないかもしれませんが、これだけなよなよした音だと大型スピーカーの価値はありません。


 強力インシュレーターPB-BIGUを導入


 クリニックその2は、力のある音を引き出す為に、つい最近8年振りにモデルチェンジしたばかりのインシュレーター、「PB-BIGU」をスピーカーの下に入れてテストです。金管楽器やシンバルの音が生き生きとしてきました。そして、今まで埋もれて聞こえなかった音も沢山表に出て来ました。


 ステレオは木と金属の響きのバランスが命です

 どちらに偏ってもいけません

 これがステレオの教訓です



 スピーカースタンドの見直し


 また、こじんまりとした力のない音の原因の一つに、スピーカー台の脚が床にシッカリと踏ん張れていない点が挙げられます。写真のように床との間に隙間が生じ、薄い紙なら80%以上入ってしまいます。


 このシステムは特別で、マルチアンプドライブ式のスピーカー、アンプ、ネットワーク一式となっていて、価格は900万円を超える代物だそうです。スタンドについては幾らか無駄使いにはなってしまいますが、「この超ハイエンドシステムが持つ能力がどれだけのものなのか、真っ向から戦いを挑むには、必要なステップと理解して欲しい」。

 そうYさんを説得し、ステンレスと真鍮のハイブリッドタイプの脚で、板部分は42ミリ厚のハードメイプル製スタンドを、BB5専用設計として新しくオーダーで作る事になりました。


 スピーカーの加速度組み立て


 今日の最後の仕上げはスピーカーのエネルギーの向きとバランスを取る作業です。ユニット間のつながりが良くなるように、ツイーター、ミッドレンジ、ウーハーユニットをそれぞれ全部外した上で、手に持って方向性をチェックします。特に今日の場合高さ方向に音が出なかったのは、中高域ユニットの向きが下を向いていたのが原因です。


 その向きを左右バランスを揃え、さらにネジの組み合わせもマッチングを取り、その上でトルクコントロールをして音の調律を計ります。これでスピーカーのコンディションは完璧です。

 あとは、スピーカスタンドの出来上がりを待って、約1月後に再訪問予定です。





 二度目の訪問


 目的地になかなか到着しません


 さて、今回はいつもと違って同じ長野のお客さんであるSさんに、BB5のセッティングを見学してもらう事になっております。今日の訪問地は志賀高原ですが、途中佐久に立ち寄り、Sさんを迎えに行くべく、梓川サービスエリアから電話を入れました。

 どうも話の内容に食い違いがあり、おかしいなと思いながらSさんの住所をナビを打ち込むと、佐久は軽井沢の隣ではありませんか・・・・。

 「あぁぁ〜、やってしまった!・・・」

 東京から関越道に入っていれば最短コースだったのですが、ついついいつも通る中央道から長野道に入ったのです。そもそもの原因は、佐久と須坂を勘違いしていたところにあります。

 長野が目の前にあるのにその手前の更埴ジャンクションで、上信越道を通って東京方面へ数十キロ逆戻りしなければなりません。何とも情けない気分であります。

 実を言いますとその前にもチョンボしていたのです。諏訪湖の先のジャンクションで真っ直ぐ名古屋方面へ進んでしまい、あわてて逆戻りしました。

 自分ではそそっかしい方ではないと思うのですが、ついてない日は失敗が重なるもので、Sさんを迎えたすぐあとに、「ガソリンが底をつきそうなので、そこのエネオスで給油してから出発します」と、口を開けたその10秒ほど後に本当にガス欠してしまったのです。

 さいわい道路の反対車線にもスタンドがありましたので、5リッターほどタンクに分けてもらい事なきを得ました。

 東京を出発した直後から、首都高と中央道で立て続けに事故現場を4回も目にしたものですから、「今日は何かありそうだから気をつけよう」と意識過剰になっていたのがその通りになってしまいました。


 前回までの音のこなれ具合のチェック


 Yさん宅へ到着してすぐに出して頂いた缶コーヒーを頂きながら、もつれにもつれた脳内の糸が解きほぐれるまでしばしの休憩です。そして、前回までの音がどのように成長しているのかリラックスモードで耳を慣らします。

 インシュレーターのBIGUを入れたことで、音の芯は喰っているのですが、如何せんそのあとの振動の伝播速度のなまくら具合は拭い去れていません。

 4本脚のやぐら式スタンドも物置台としては安定し機能しておりますが、事、音楽振動を受け止め、それを表現するような高次な仕事においてはハッキリ言って甘過ぎます。

 特にスピーカースタンドは、音楽に含まれている多様な振動の強弱や、緩急のバリエーションを描くのが仕事ですので、その一瞬の迷いやたじろぎも許されないのです。

 いつ、誰が、何を、どのように、といった風に、振動のやり取りに関係する全員がその役割をシッカリとこなせる適材適人でなくてはなりません。


 本日の主役登場


 スピーカースタンドとスパイク受けインシュレーターは夫婦のように一体の物ですので、お互いに息が合ってなくてはなりません。エコノミーな1個4,700円のBASIEと1個33,000円もする最高級のGIANT BASEのどちらにするかちょっと迷った 後に、どうせならと、最高を目指す為にGIANT BASEに決定です。

 8個のGIANT BASEの位置決めをし、とりあえずBB5を右の片チャンネルだけ乗せ換え、設置位置もいい加減なままで聴いて頂きます。1本だけなのに圧倒的なエネルギーで鳴り始めました。今の音を聞く限り、先ほどまでの音は、1/5の力も取り出せていなかったようです。



 異常とも思えるぐらいインシュレーター、スタンド、スパイク受けインシュレーターに予算を掛けましたが、得られる音からすると高いようで一番安いことに後で気がつくと思います。

 基礎の持ち得点がこの時点でぶっちぎりですから、その後、何か音のグレードアップを試みるにしても累乗倍となって効果が現われるはずです。


 アンプからスピーカーユニットまで直結配線


 内部配線の交換を希望されましたので、最近開発したばかりの1,300円/mのMusic
SpiritのSteadyにやり替えました。長さはカイザー寸法の3.6kaiser(3.78m)にします。



 ロールで持ってきておりましたので、低、中、高の順に方向性共々戸籍簿管理した形で配線します。スピーカーケーブルをスピーカーユニットからアンプまでダイレクト結線するのは、私の長いオーディオ人生の中でも初めての経験です。

 マルチドライブである上にここまで徹底した素っ裸状態の結線だと、よほどオーディオセッティング技術が優れていなければ、却って短所の方が出やすいので、真の意味での実力が試されるわけです。

 今回はYさんの希望であると共に、BB5を人跡未踏の地へ連れて行くべく私の挑戦でもあります。


 困難を極めたスピーカーのトルク調整


 前回スピーカーの加速度組み立てをやっていたのですが、内部配線を換えるとなるともう一度やり直しです。あらゆる箇所が金属製に変わったことにより、音の反応が俊速状態となり、ほんのわずかなトルクの差でも音がゴロゴロと変わるようになりました。

 特にミッドドームを止めているネジにはギザギザの付いたボックス型のワッシャが間にあり、これが曲者で調整に困難を極めました。

 掛ける曲により良し悪しが大きく振れてしまうのです。特に声に関しての調整に手間取りました。これで良しと思っても、ディスクを換えると違う人物の声のように聞こえてしまうのには苦労しました。



 中森明菜の声がえらく老けた女性の声に聞こえたので、これはいかんと思って、必死になって調整し直しました。

 「よっしゃ!」という掛け声と共に完成です。

 彼女の声はこの最近ローゼンクランツのカーディナルスピーカーの開発時に嫌というほど調整のテーマとして掲げていましたので、リファレンスディスクとして本当に助かりました。


 アンプ類の電源周りの調整


 左右のスピーカーのバランスを取り終えるとあとはスピーカーをベストポジションに微調整しながら設置して完了です。


 ラックの裏に10口もあるタップの各機器の差込順を最適に入れ替えると一層音の流れが良くなり完成の域に近づいてきました。





 三度目の訪問


 大型スピーカーがずれて動くほどの大音量派


 『外で畑仕事をしながらでも聞けるほどの物凄い大音量で鳴らすからなのか、床が弱いからなのか、スピーカーが微妙にずれるようなんです』。

 『カイザーさんのお客さんの多くはサウンドステーションを使っていますが、私のBB5にも有効でしょうか?』。

 『スピーカーの足回りにはお金を掛けましたので、どうせなら妥協せずに最後までキッチリやりたいです』。

 『以前からお願いしていました機器のインシュレーターのセッティングに合わせて、一緒にお願いしたいと思っています』。


 「サウンドステーションは効きますよ!」。

 「部屋を音の良いカイザー寸法で作ったかのように、床から始り、壁や天井までも音楽性の高い響きに生まれ変わります」。

 「BB5だったらLサイズが良いですね」。

 「スピーカーの足回りは今でもかなり強力ですが、更にサウンドステーションが追加されれば、スピーカーのセッティングとしては願ってもないものになります」。

 「世界でもぶっちぎりのBB5に成ること間違いなしです」。


 今回のようなインシュレーターのプランは初めて


 K.Yさん宅はそれぞれのインシュレーターの特徴と能力を最大限に活かしたお手本のようです。数あるセッティング例の中でも、これほど役割分担をハッキリさせたフォーメーションは初めてです。

 究極のカイザーセッティングと断言出来ます。

■CDプレーヤー
BIGU/正確かつパワフル、そしてハイスピード


■パッシブコントローラー
PB-REXW/品性とデリカシーそして余韻の美しさ


■チャンネルディバイダー
CORE/切れ味鋭くあるがままの自然な音色


■ウーハー用モノラルアンプ
BOSS/うねるような躍動感


■ミッド用アンプ
REX(戸籍簿管理連番スペシャル)
お互いを引き立て合うアンサンブルの魅力


■ツイーター用アンプ
REX(戸籍簿管理連番スペシャル)
ハーモニーの美しさ


■スピーカー
BIGU/俊敏な反応とダイナミックレンジの広さ


■スピーカースタンド
PMC/BB5用に専用設計

■スパイク受け専用インシュレーター
GIANT BASE/質と量の瞬時的音楽振動処理能力


 最強のメンバーで組んだその音は?


 つい二日ほど前に寺島レコードから発売された「For Jazz Audio Fans Only」が寺島さんの挨拶文入りでディスクユニオンから送られてきました。

 何でも、極上の音であり、曲ばかりを抜粋した物らしい、先入観無しで特別な期待もしないで聞いてみる事にしました。

 一曲目で度肝を抜かれました!

 音も素晴らしいし、演奏も素晴らしい

 ”これをご機嫌と言わずして何と言う!”

 そんな心境です

 正に耳を鷲掴みにされました

 1曲目にPATCHWORKという曲を持って来たのがこのディスクの全てです。チッ♪、チッ♪、チッ♪、耳をそば立てたってこんなリアルなシンバルの音は聞いた事がない!というほど、音が立っているんです。まるで生きているようです。改めて寺島さんの素晴らしさを知る事になりました。見事に1本取られたって感じです。

 ”デジタルならどんな音でも作れる”と、真顔で口にするハイテク機器妄信のサラリーマンレコーディングエンジニアあたりが作ったディスクとは、”本物とまがい物ほどの違い”と言っても言い過ぎではありません。

 もっとはっきり言うと

 ”金返せ!”と言いたいのと、

 ”釣りは要らん取っといてくれ”

 そんな差です。


 前振りが長くなりましたが、私が今日唯一用意したこのディスクが、BB5セッティング後にどんな音で鳴ってくれるのかが一番の楽しみだったのです。

 その前に、約1年ぶりに聴く現状のBB5の音はその時の印象より随分とこじんまりした鳴り方に変わっていました。その原因は、良いと思ってやった事ではあるのでしょうが、予算が出来るまで待ちきれず、衝動的に買って組んだ多種類のインシュレーターにどうも原因があるようです。

 お陰と言っては何ですが、今日の私にはその音をちょっと聴いただけで、サウンドステーション設置後の音のイメージがキッチリと描けました。締めるネジの順番を変え、7〜8回に分けて少しずつトルク調整をしながら組む加速度組み立てという方法は、サウンドステーションが完成するまでに2時間近く掛かります。

 今日のはLタイプですからいつものMに比べるとうんと難しく、出来上がった時には思った以上に体力を消耗していました。それだけに、組み上がったばかりのサウンドステーションからはメラメラした陽炎を見るかのごとくエネルギーが漲っています。

 この時点で既にただならぬ音が出現するのは見えたので、今日のBB5との闘いには私の勝ちが決まったも同然です。


 慈愛に満ちた正真正銘の信州蕎麦


 『カイザーさん昼は蕎麦を食べに行きましょう』。『ここら辺り一体は蕎麦畑が一杯あって自家製の蕎麦屋さんが何軒もあるんです』。

 天ぷら付きの盛そばを注文しました。それはそれは美味しかったです。蕎麦は勿論の事、蕎麦湯の美味しさにはビックリしました。今までは、”何でこんな不味い物を飲むんだろう?”と不思議に思っていた謎が解けました。それは蕎麦湯が私の嗜好に合わないのではなく、ただ本物に出会った事がなかっただけの事でした。

 私は四国の生まれですから根っからのうどんっ子です。美味いうどんを食べると、食べてる端から力に変わるのが分るほどです。私にとって食べて直ぐ力に変わると実感出来る食べ物はうどんが一番です。

 それが今日の蕎麦湯は、讃岐うどんと同じように、”栄養になった!”と、身体が正直に反応しています。志賀高原の土と水と空気が育んだ滋養に満ちたそばです。

 豪雪地帯ですから、雪解け水が岩盤や山肌を長い時間を掛けて浸透して出来る、栄養タップリの地下水が効いているんだろうと思います。こんな環境の素晴らしいところで生活出来る人達の幸せは、山と積まれた札束より価値が有ると思えました。

 蕎麦屋の大将に”美味しかったです!”。”冥土の土産になりました”と感想を述べると、腰があるとか、歯応えが良いとかという通り一遍の感想と違って最高の誉め言葉と感じられたのでしょう。長生きするようにと言って、そばに置いてあった筆を手に”命”という字を書いてプレゼントしてくれました。

 聞けば習字の先生でもあるらしい、年も私の一回り上のねずみとのこと。だから馬が合ったのかもしれません。一見ぶっきらぼうのようですが、朴訥とした人柄は真の日本人の良さを教わるに充分でした。本当に有り難い至福のひと時でした。


 マルチを信じ、カイザーさんにお願いして本当に良かった


 栄養と愛情をシッカリ頂戴したので、力が湧いてきました。サウンドステーションを設置し、大雑把にスピーカーの位置合わせをしただけで一曲目のパッチワークをかけます。

 『えっ、ここまで違うもんですか!』

 私の予想よりもちょっとばかりいい感じで鳴っております。案の定素晴らしい音がしております。東京とは電気も空気もまるで違います。良い音がするのは当たり前かもしれません。
 今鳴っている音はかぶりつきで聴いている生と何ら変わりません。凄い迫力と実在感です。アルバムの最後を飾る14曲目は松尾明のドラムが光ります。CDから出る音とは信じ難いほど生々しいです。

 特にプリアンプをローゼンクランツのパッシブコントローラーに換えた途端、一気にオーディオの音から生演奏に変わりました。試しに聴かせて欲しいと言われて持って来たはずだったのですが、余りのその音の違いに予算をオーバーしているのも忘れ、『支払いの事は後から考えればいい』と言って、瞬間買いになっていました。



 K.Yさんは大きな手応え掴んだようです。『マルチはやっぱり間違いではなかった』。一時は38センチクラスのスピーカーを3セット同時に持っていた事もありましたが、BB5一本に絞って”カイザーさんにお願いして本当に良かった!”と、言葉にした時のその顔は心底嬉しそうでした。

 良い音が出たのも束の間、K.Yさんは中途半端は大嫌いというタイプなので、次は電源周りを充実させる予定でいるようです。





 四度目の訪問・・・(オーディオラックの納品)


 電源周りを強化する予定だったのですが、私がオーディオラックの新製品を次々と納品設置する様子を見聞きして迷いが生じたようです。

 『電源周りと、ラックのどちらを先にやった方がいいでしょう?』

 「どちらからでも良いですけど、徹底的に振動面を完成させる意味ではラックを先にした方が良いのではないでしょうか」

 もし電源をやるとなると、パワーアンプに4本、チャンネルデバイダーに2本、CDプレーヤーに1本、更に電源タップが2個、また、それ用にも2本要る事になるので電源ケーブルだけでも9本になります。

 「電源と信号ケーブルは私がクリニックに伺う前のままでありながら、振動対策だけでどこまで音を向上させられるのか?」

 いずれはどちらもやると言うのであれば、「これほど徹底したアプローチは、私にとっても初めてみたいなものですから、是非ともラックからやって欲しいと思います」

 「その方が、オーディオの奥の深さや、真髄、そしてまた、面白さのようなものがハッキリと見えてくると思いますよ」


 オーディオの真髄は振動を極めるべし


 世間で評判の良い製品や、情報等を中心に音作りをしている人達の多くは迷いやブレがあり、納得の行く目標を自分で見つけ、それに向かって真っ直ぐに進んでいる方はそうそう居るものではありません。

 振動というものの習性や本質を掴むと、オーディオが何たるものか見えてきます。実際にそのアプローチを取って来た私がそうでしたし、現にK.Yさんご自身も過去の遠回りした経験からして、そこらあたりの事はもうハッキリと分かっていらっしゃる訳ですね。

 『分かりました、ではラックにしましょう』

 「今の機材の数からすると4段タイプを2つという手もありますが、先でコンバーター等、機材の追加を視野に入れることまで考えると、3段のラック3台が良いと思います」

 『はい、そうします』

 電話の向こうからいつも明るく楽しそうな話し方をする、K.Yさんらしい歯切れの良い答えが返ってきました。


 納品に先立ち周到な準備


 音を考慮に入れた加速度組み立てを施しますと、ネジの数が多いので1台組むのに2時間は掛かります。それを現地でやるとなると、一日が終わってしまうので、納品の二日前に落ち着いて組む事にします。


 そして、ラックのレイアウトは騎馬を組むように、前を頂点にした三角形を陣取る形を考えています。インシュレーターの前1点後ろ2点のセッティングと同じように、それをコンポーネント全体で構築する訳です。


 本性を現し始めたBB5


 実在感のあるタフな音のするスピーカーが、90年代以降はすっかり姿を消してしまった中で、このBB5は実に存在感があります。特に分厚く熱い高音が素晴らしい。


 ドーム型なのにJBLの075や2405のような力のある音がします。振動板の前に付いているパンチングメタルが効いているのでしょう。シンバルが本物のように聞こえます。

 見た目通り金の掛かっていないざっくりとした作りが却ってリアリティーを生み出すのでしょう。ウーハーユニットの前面についてある8本の強靭なフレームが、ユニットから出たエネルギーを受けて、箱全体を効率良く圧縮膨張させるのです。


 色々聴かれる中でもK.Yさんはロックやポップスがお好きなようですから、熱い鳴り方に音作りを仕向けて行った方が好まれます。女々しい音しかしないスピーカーの多い時代の中で、骨のあるBB5は出色です。今回のラック導入によってその本性をどんどんと見せ始めました。


 天井知らずで音が良くなるBB5


 電源周りと信号ケーブルを何もしないで、これだけ天井知らずで音が良くなるのは過去に例がありません。業務用なのでスピーカー、アンプ、ディバイダーが一体として組まれた形で販売されているのが効いていると思います。

 プロ用で有名なBRYSTONのアンプはさて置き、ネットワーク設定が見事なんでしょう。こうして考えると、本来はスピーカーとアンプはよく吟味された一体の物として販売されるのが一番間違いのないやり方のように思えて来ました。

 PMCが採用しているトランスミッションラインという箱の構造が優れている事は、何よりも今鳴っている音がその全てを物語っております。オーディオ的に魅力ある音というのではなく、とにかく音楽のリアリティーが素晴らしい。やけにスリリングです。

 ただBB5のネジのトルクコントロールは本当に大変で、過去に処置した中でもぶっちぎりでNo.1の難しさです。


 次回の音のシュミレーション実験のはずが


 電源ケーブルのMaximumシリーズを2本用意してきていましたので、低域用のモノラルパワーアンプに繋いで聴いて頂きました。

 その変化の度合いたるや物凄く、全く予定に無かったACケーブルではあったのですが、その音を聞いたら外す事など出来なくなり、前回同様またしても清水買いになってしまいました。





 五度目の訪問


 ”買えばいいのに”奥さんの心強い後押し


 前回の最後は正直なところ、次の電源ケーブルの段階では”こんな風に音が向上しますよ”というのを、知って頂く為のほんのテストのつもりでした。

 また、”間違いなく確実に良い方向に向かって進んでいる”という事を納得して頂く意味合いで、ACケーブルMaximum33というモデルを試聴して貰った訳です。

 その音の凄さに即買いとなった訳ですが、更に一週間後には大化けして、『とんでもないところまで行ってしまった!』とK.Yさんから連絡がありました。

 奥さんもその音を聞いて、『これだけ凄い音なら私にも判る、長年の希望が叶うなら残りの機器にも同じケーブルを揃えたらいいじゃない』と言ってくれたそうです。

 『簡単に言うけど、1本幾らすると思ってるんだよ、17万だよ!、それも6本要るんだよ!・・・』

 『いいじゃない17万でも、よく稼ぐんだし、他には使わないんだから』

 男をその気にさせる、殺し文句を知っています。

 いい夫婦です。

 K.Yさんは今以上に働き蜂に成らざるを得ません。


 伝家の宝刀!”カイザースペシャル”仕様


 『そんな訳で、信号系のケーブルだけは一番安いBasic1で揃えたいのですが、どうでしょう?』

 分かりました!、そこまで言われるのなら、信号の流れと裁断したケーブルの順番をリンクさせる形の、戸籍簿管理モデルを私が特別に作りましょうと大ハッスル。


 納品三日前の朝6時でした。爽やかに目が覚めたので、ヨシ!今だ!。気持ちが乗ったタイミングを見計らって作りました。出来上がった5本のXLRケーブルから何とも言えないオーラが漂っています。


 リミッターが外れた時は怖いもの無しです


 K.Yさんもここまで来たら予算無視の気分なのでしょう。2回に分けて電源周りと信号ケーブルをグレードアップする予定が、一気にオーディオラック共々やる事になったのです。

 ラックを納め、電源ケーブルをウーハーにだけ繋いだ時には冗談交じりで、『今なら政府の後押しがあるから、ハイブリッドのインサイトでも買ったつもりで勢いよく行こう』なんて言っていましたが、あれよあれよとレクサスクラスの買い物になってしまいました。

 『まるで麻薬を打たれたみたい』と、今のその音の魅力と凄さを語っていたK.Yさん。さてさて、更にこの先、全ての布陣が揃った音を実際に体験したら、どんな喜びようなんだろうと私までそわそわしてきます。


 とっておきのそばをご馳走になりました


 例によって週末の高速道路は1,000円ドライバーで混んでいます。東京を6時半に出たのですが、志賀高原に着いた時にはほとんどお昼の12時が近くなっていました。

 「今日は朝から何も食べていないので、いきなり昼食にしませんか」とK.Yさんに電話を入れます。

 『美味しいそばを食べて貰おうと思って予約していますから、しっかり力をつけてからやって下さい』。

 志賀高原でも一番高い眺めの良いところ。スキーロッジが目の前の蕎麦屋さんでした。

 いきなり大きなお団子のような物が出てきました。そばを荒い臼で挽いて熱湯で混ぜただけだそうです。それを塩と本わさびをつけて頂きました。

 もちもちしていて搗き立ての餅に食感が似ていますが、そこまでは粘りがなく、何とも他に例えようがない初めての歯応えです。


 命に直結した味


 主役のそばはと言うと、とっても香ばしくて風味のあるそばです。そうめんに近いほど細いのですが、独特のしなやかさです。

 命を紡ぎ出してくれているそんな味です。全身に食べる端から力がみなぎって来る。美味しい讃岐うどんを食べた時も同じように力を貰います。

 挽きたて、打ち立てのそばとの事でした。繋ぎは何も無し。正真正銘の十割そば。普段食べている茶色のそばが偽物なのか、淡い緑色でまったく別の食べ物としか言いようがありません。

 ちょっとしたコース料理のようになっていて、最後にはそば生地で焼いたピッツァが出てきました。「素朴な風味のそばを食べた後に、こってりチーズのピッツァなど食べたくないなぁ」と思いつつ口にしますと、不思議に何枚でも進むんです。

 これを本場のイタリア人に食べさせたら、「こんな美味い物作られると、本家の立つ瀬が無いから止めてくれ」と言われるんじゃないかとさえ思いました。

 本当に美味しかったです。

 正に冥土の土産級の味です。

 こんなに美味しい物を食べた後は満足感で一杯になり、仕事なんかしたくない気分です。


 想像がつかないほどの音に


 K.Yさん宅に戻り、コーヒーで一服。気分も切り替え、さぁ、仕事!仕事!。いよいよ気合のこもったケーブルの結線です。電源ケーブル類は全て最高級のMaximumシリーズです。

 今回はパッシブコントローラーの為、コントロールアンプ専用のAC-Music
ConductorをCDプレーヤーに使います。これ1本入れただけで物凄い音になりました。

 徹底して足回りを強化しておりますので、機器の持っている実力が完璧に引き出せます。恐ろしいほどの実在感です。

 ひとつひとつ確認するように信号ケーブルと電源ケーブルをローゼンクランツ製に交換しますが、未体験ゾーンの音に突入してからも、その都度、果て知らずのように音が向上します。一体どこまで行ってしまうのでしょう・・・。



 生以上に凄い音がある


 生演奏の場合、初めから生を聞きに来ているという意識や体験の中での出来事ですから、どんなに素晴らしくとも現実の出来事として受け止められる訳です。

 しかし、今目の前で鳴っている音はオーディオ機器から出るはずの無い音であり、体験した事のない音です。だから、嘘だ!、嘘だ!、ステレオからこんな音など出る筈が無い!と脳が認めようとしないのです。

 オーディオ屋は私に限らずオーバーな表現をするものですが、この音!、ステレオが演じる音楽としてはおそらく世界No.1ではないでしょうか。


 心技体の全てが備わった音


 魅力ある音であり、凄い音は幾らでも存在しますが、トレードオフのように決まってどこかに大きな苦手を持つものです。

 しかし、このシステムの音は横綱のような風格があって、どんな音楽が来ようとも”受けて立つ”そんな心技体の全てが備わった音です。


 真の意味での”ノンカラーレーション”


 オーディオ界に携わる者が目標とする”ノンカラーレーション”。強弱、緩急、音色、それに感情が加わった四本柱が正しく変換されるというテーマに於いては、間違いなく世界一だと言える自信があります。


 ただ単にS.Nの高い無表情な音などではないですよ。あるがままの自然界にある普通の音です。

 アーティストが全魂を込めて表現する精神性であったり、悲しみや喜び、そうした内面性の深さや、壁や天井を取り払ったかのような広い音場空間。とにかく全てをあるがままにさらけ出しております。

 K.Yさんの野望はとどまるところを知らないかのように、更に魅力ある部屋の音色を向上させる為に、お金を貯めてから”ミラクルサウンドスクリーン”の導入構想を持っておられます。


 私が”ほら貝の大風呂敷”を広げるのはこれが3回目です





 今回のシステムをお世話させて頂いた事で、私の目指した方向性に間違いが無かった事を完璧に証明出来ました。

 そこで改めて公言します

 カイザーサウンドは世界で一番良い音を作り出す”法則性”、”アイテム”、”腕”の三拍子を確実に手にしました。

 どんなシステムをお持ちの方でも、

 どんな音をお求めの方でも、

 カイザーサウンドにお任せ下さい





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