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ハイエンドケーブルを総括

前書き

"オーディオクリニック"の際に、露となる音の問題点を"製品開発"に反映させ、お客様への感動という形のフィードバックシステムを確立出来た事が、「音のカラクリ」を解き明かす事に繋がっております。「急がば廻れ」のことわざ通り、この20年、私にとっては牛歩のようでしたが、むしろ最短距離だったと思えるようになりました。

特にここ一、二年は、イメージする音楽表現が狙った通り出せるようになり、最終章を演じる喜びを日々実感出来ているところです。3.11以降は時が止まったような感があるので、しっかり足を地に着け、これはと思うテーマについて、私なりのアプローチで詳述してみたいと思っています。

「音のカラクリの総集編」
第一回目 ハイエンドケーブルを総括


第1章 ハイエンドケーブルの終焉

今回はハイエンドケーブルが残した功績と共に負の部分に於いても、しっかりと検証し総括してみたいと思います。

CDの普及拡大の勢いに乗じるように、また、鳴らし難い低能率スピーカーを鳴らすべく、ノンカラーレーション(癖のないケーブル)を命題にした高性能ケーブルの開発競争に拍車が掛かりました。中には何百万もする高価な製品まで誕生したのには驚きましたが、それでも富裕層に結構な数が売れたという話を耳にもしました。

世界の技術者達が持てる限りの英知と情熱を傾け、また多大な開発費を投じて誕生させたハイエンドケーブルは、正に資本主義バブルの象徴のようでもありました。業界がこぞって旗を振った訳ですから、ある種の「洗脳効果」が働いたのは間違いありません。一旦出来てしまったその大きな流れという物は、潮目が変わるまでは誰も止める事は出来ません。今の携帯電話がその真っ只中ですね。

「足りるを知る」という日本の文化とは馴染まないようにも思えますが、世界を挙げての先人達の残してくれた沢山の技術、特にコストの掛かる高純度銅や銀の分野に於いては、誰彼と出来るものではない貴重な財産でありデーターであるのは間違いありません。

ハイエンドケーブルの性能と価値については、良くも悪くも両刃の剣のような部分があります。また、幸か不幸かケーブルバブルは世界中を震撼させた、'08アメリカ発のリーマンショックと共に終焉を迎える事となります。


第2章 ハイエンドケーブルの技法

試みたアプローチは大きく分けて三つに集約出来ると思います。
一つ目は高純度導体の開発
二つ目が優れた絶縁材、防振材の開発
三つ目は独自な構造デザインです
この三つの技術はアプローチこそ違いますが、寄与する音への内容はよく似ていて、情報量の拡大や分解能、S/Nの向上となって現れます。

1. 高純度銅を検証

先ず高純度銅について検証してみたいと思います。99.9999%という風に9の数で6Nとか7Nとか表示されますが、Nは9(Nine)の頭文字です。測定の方法がメーカーによってまちまちな為、8Nの物をあるメーカーで計ると5Nにしかならない事もあるので鵜呑みには出来ません。

含まれる不純物が少なくなるにつれて、目の前のベールが剥がれたかのように見通しの良い音になります。音の情報量が増えるのも大きな特徴ですが、その中でも音と音の間の静けさは驚きに値します。そして音質としては綺麗で品の良い方向へと変化します。中でも三菱電線の結晶巨大化技術(D.U.C.C.)は導体抵抗が少なく無指向性と言っても差し支えない優れた技術です。

長所が裏目に出るケースとして、電源汚染から受ける磁気歪や位相歪をもろに受けてしまう点が挙げられます。環境の影響を大きく受けます。所謂、世間知らずな"箱入り娘"に似た部分があるのです。だから、世の中に反逆するようなロックやメタル、あるいはブルースに代表される苦しみや嘆きといった音楽表現には不向きと言わざるを得ません。

拠り方やそのピッチによっても音楽表現が大きく変わるので、素材の能力に過度に頼るのは大いに危険です。高純度銅は使い手の腕が要求されますから、使いこなしがとても難しいのです。

2. 絶縁材、防振材を検証

続いて絶縁材、防振材についてですが、振動対策の量に比例してピアニシモ時の静寂感は良い方向に向きますが、それとは反比例するように、躍動感は無くなって行きます。音は端正でフォーマルな方向へと向かいます。

防振材が多いと、冬の厚着のように動きや反応は鈍くなります。従って、身体を動かし、踊りたくなるような速いリズムやビートの音楽にはとても向きません。開放感と躍動感が無くなるので、防振材という洋服は薄着で済むものなら薄着に越した事はありません。特に外側のシースが厚いのは致命傷となります。

偏見だと受け取られると困りますが、クラシック音楽を嗜む人と暮らし向きや収入の高さはかなり正比例します。だからこそハイエンドケーブルが結構な量売れたのだと思います。

聴く音楽の比率が楽器編成の多いクラシックに傾倒しているならば、ハイエンドケーブルに長所を見出しやすいでしょう。「クラシック向き」、「ジャズ向き」という表現をよく目や耳にするのもこういう所から来ているのです。

防振材は素材の触感がそのまま音に現れます。絹は雅やかで上品な音になり、綿は爽やかでカジュアルに、また、合成繊維は煌びやかで派手な音になります。こうした素材のチョイスにより狙った音の設計が可能となります。また、空気や液体が絶縁材として用いられたのはちょっと驚きましたが、液体に至っては漏れると短絡の危険性もあり、やはり策に溺れ過ぎの感が否めません。

3. 斬新な設計や手の込んだ構造

音の混濁感やまとわり付く感じを無くそうとの考えで、単線1本毎に絶縁を施し、芯となる防振材の外側を囲うように配したケーブルあたりが、ハイエンドケーブルへと繋がる拘りの始まりだったと思います。

それを更に発展させるように線径のサイズを少しずつ変えた物を、オーム貝のように螺旋構造にした物も出て来ました。あるいは表皮効果による低周波の遅れを無くし、高周波との足並みを揃える目的から、丸い導体ではなく平らな導体を作り、お互いに絡み合うようなDNA螺旋と同じ格好のケーブルも誕生しました。

やる事が無くなり始めた晩期には、ノンカラーレーション思想はかなぐり捨て、ケーブルの途中にブラックボックスを設け、その中に色々な仕掛けを施し、音に味付けをする方向に目が向けられるようになりました。こうなると科学的な視点での物作りよりも、芸術性の追求の方が上回り始め、ケーブル作りの第二の変換点に差し掛かったと見ていいと思います。

さて、肝心な今後ですが、ケーブルバブル時に負けないだけの強い理念とエネルギーを持って、更なる完成度の高いオーディオケーブルを誕生させる事が出来るのでしょうか?、少しばかりの期待を持って待つ事に致しましよう。

4. ケーブルは文武両道であるべき

さて、話題が変わる格好になりますが、誰にも負けないほど勉強すると、知識量は増え、テストの成績はどんどん良くなって行きます。しかし、成績が優秀だからといって、教師に向いているとは言えません。その両者の適正は全く別で比例関係にありません。子供を立派に育てるには厳しさと愛情、教育者には人間的魅力が欠かす事が出来ません。

即ち、情報量が多くてS/Nの良い事が音楽の感動に繋がる一番大切な要因では無いという事を言いたかったのです。勉強が出来ても運動は全く苦手、要するに軽快な動きが苦手なスピーカーでありケーブルに通じる話です。

よく遊びよく学べの諺のように、
ケーブルは文武両道でなければなりません。


第3章 ハイエンドケーブを総括

1. ハイエンドケーブルと電源汚染

冒頭でも触れましたが、音楽情報の高速伝送、大量伝送を目指すに当り、銅や銀の素材の純度を上げて行くと、得られる音の精細度と共に、位相差や時間的歪等の影響を受け易い原因となる電源汚染の問題が、二律背反するトレードオフ現象としてクローズアップされるようになりました。

要するに、イライラした音、ノイズっぽい音です。年を追う毎に電源汚染はひどくなっています。その電源の汚染の問題については以下に詳述していますので、ここで詳しく述べるのは控えます。是非以下のページをご覧頂きたいと思います。

インバーター機器がもたらす電源汚染

2. ハイエンドケーブルと高能率スピーカー

ヴィンテージスピーカーは僅かなアンプの力で存分に鳴るように作られているので、何百円の安くて細いケーブルでも余りあるだけのエネルギーを送り込めます。現代の低能率スピーカーと比べると、そのパワーは軽く100倍以上の力の開きが有ります。

要するにヴィンテージスピーカーは、鳴るべくして鳴るように出来た選り抜きのサラブレッドでありアスリートなのです。生まれながらにしてモノが違い過ぎます。だから個性溢れる歌手や演奏者の磨き抜かれた技や魅力を見事に伝えてくれるのです。これこそが"動特性"に優れた証しであります。

そんな素晴らしいヴィンテージスピーカーに、ハイエンドケーブルを繋いだら「さぞかし凄い音になるだろう?」と思われるでしょうが、あにはからんや、やかましくて、うるさいばかりで、聞けたものではありません。ナローレンジ高能率スピーカーにハイエンドケーブルを繋いだ時の音ほど最悪なものはありません。

そんな時の為にローゼンクランツでは、Music SpiritというブランドのSwing/@\650/mという、ヴィンテージスピーカーにピッタリのスピーカーケーブルを開発し販売しております。是非お試し頂きたいと思います。

3. ハイエンドケーブルと低能率スピーカー

ハイエンドケーブルは現代の低能率スピーカーを鳴らす為に作られた物ですから、お互い相性が良いのは当たり前で、特に最新録音盤との相性はバッチリです。溢れんばかりの音情報は現実には有り得ないほど絢爛豪華でゴージャスです。

この華やかさが物質文明真っ只中の人の心を誘惑するのでしょう。しかし、ステレオ本来の姿である音楽性という観点から見た時には、私は疑問符を付けざるを得ません。

緩急、強弱、陰陽等、音楽に於ける対極表現は沢山あります。その中の最重点テーマである清澄⇔汚濁は私の感じでは5:2のバランスとなります。そのハイエンドケーブル+低能率スピーカーから出る音に、体臭や汚物をも含んだ汗の臭いまでは感じ取り難いです。

4. ハイエンドケーブルと昔のディスク

昔のディスクはナローレンジではあるものの、自然界で実際に耳にする音と近い状態で、音の遠近と強弱が収録されています(実はこちらの方がダイナミックレンジは大きい)。

従ってフラットなf特である現代の低能率スピーカーとハイエンドケーブルで再生する昔のディスクはラジオのような平板な鳴り方しかしません。だから、昔の名盤といわれる名演奏に魅力を発見出来ないという、悲しくも誤った判断を余儀なくさせてしまっているのです。

この財産をつまらない音にしか表現出来ない点はハイエンドケーブル+昔のディスクの最大の問題点です。この点だけに於いては、業界は全力を挙げて改革しなければならない使命があります。今回のハイエンドケーブルの総括の中で私が一番声を大にして言いたい所です。

■古い時代の名演奏が鳴らないのはステレオ失格

測定器など無かった時代は、人間の耳で全てを判断してオーディオ機器もディスクも作られましたので、実に生々しい音であった訳です。何故かと言いますと、人間の耳の聞こえ方は、2kHz〜5kHzが盛り上がるように他の帯域に比べて10〜20dBほど感度が高く出来ているのです。それをラウドネス曲線と呼んでいます。

人はその音域を中心に常に聞き耳を立てて生きています。要するに感情のエネルギーがその帯域に集中している事を意味しています。昔の製品やディスクはそのラウドネス曲線に波動が合っているからこそリアルに感じるのです。それを狙って作ったのではなく、本気で作ったら人間に合っていたというのが正直なところです。物作りとは原点回帰すれば自ずとそうなるしかないのです。

■日本人の魂を込めた本気の物作りこそが日本の生きる道

だから、オーディオ製品の音決めと開発は絶対に耳で行うべきなのです。それを20Hz〜20kHzまでフラットに作ろうとしている事こそ、薄っぺらく感じる原因になっているのです。ソフト、ハード、マスコミを含んだ業界全体がここにメスを入れない限り業界の発展は望めません。

■日本オーディオ協会が先頭に立ってやるべき仕事です

5. ハイエンドケーブルと現代のディスク

デジタル技術によって後からどうにでも調理出来るという過信からか、最近のソフト作りは、録音現場のマイクセッティングの仕事よりも、マスタリングという編集作業にウェートを置き、現代のスピーカーと相性の良いディスク作りが為されております。現代の鈍重で平板なスピーカーでも迫力ある音に感じるような細工が施されるのです。

小さい音もレベルを上げ、遠くの音もレベルを持ち上げ、全員を主役に仕立て上げ、ゴージャスに感じるように整形手術を施した上でディスクとして発売されるのです。それは音楽の遺伝子を操作する冒涜行為と言っても差し支えありません。

自然界にメスを入れ過ぎると、遅かれ早かれ罰が下される時がやって来るでしょう。化学調味料に飼い慣らされた大方の人にはそれが良く感じるようですが、本当に動物的勘の良い人は、嘘くさい現代の録音物は避けて通ります。

■ソフト会社は小細工を止め、原点回帰し魂を鷲掴みする音を作るべし

低音から高音までハイレベルに収録されたディスクと、現代スピーカーは勿論マッチングは良いですし、電源周りのノイズもその音圧の陰に埋もれて気が付き難く出来ているのです。このような対症療法的手法はこの度の原発事故の報道のされ方と似たものを感じずにはいられません。

6. ハイエンドケーブルとソフトの関係

もう一つ困らされるのは、ソフトの相性と落差の大きさに翻弄され、聴くに堪えないディスクの数が増えて行ったのです。

スピーカーとの相性問題だけではなく、高純度ケーブルは僅かな変化に対しても鋭敏だから、ソフトとの整合性の幅をも極端に狭める事になります。特に綺麗な電源の時代に録音された数十年前のディスクは、ノイズが目立ち易くノイズの耐性にとても弱いのです。

ケーブルの構造によるところも大きいですが、音楽のエネルギー変換率や相性面から見て、ハイエンドケーブルを誉めるところが無かったと断じても、そろそろ異論を挟む人もいなくなろうとしているのではないでしょうか。

高純度ケーブルを野球のピッチャーに例えると、誰よりも驚くほど球は速いけどコントロールが悪く、フォアボールや暴投で自滅しがちなタイプで、使う立場の監督からすると、いつもヒヤヒヤさせられるピッチャーと言えるでしょう。

決して高純度銅が良くないと言っているのではありません。ローゼンクランツも6N、8Nを使っています。要は腕次第、何事も使いようです。トータルの設計技術が一番ものを言います。

■カイザーサウンドがぶっちぎりNo.1のケーブルを作ります