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第8回 振動の時間軸について 
A&Vvillage 5月号 第61号 P64〜P65

貝崎静雄(カイザーサウンド)

 前書き

 今回は「振動の時間軸」というテーマについてお話させて頂くのですが、オーディオシステムを使って音楽をより良い音で楽しむのにこれほど重要な事はありません。主に私の実体験を中心に触れてみたいと思いますので是非参考にして頂きたいと思います。

 ステレオとは振動仕掛けで音を出す物

 ステレオという物は電機メーカーが作っている関係もあって、誰しもが電気的な問題に意識が行きがちです。実は、ここに大きな錯覚の始まりがあるのです。電気というのはあくまで手段であって、目的は振動で音を出すという事です。ですから、本来は、ステレオとは『振動仕掛けで、電気を利用して音楽を鳴らす道具』ということになります。

 ● アルミコーンをモニターにしている理由

 
 振動の問題の全てはスピーカーのコーン紙に集約されているといっていいと思います。振動の伝播速度が速く、程よい内部損失を持った素材というのが理想とされています。その為ローゼンクランツでは伝播速度の速いアルミコーンのユニットをモニターとしてきたのです。
性能の良いインシュレーターを作る事が私の仕事。今も敢えてアルミコーンでモニターしている。

 ただ、内部損失という面では紙や樹脂系の物には適わず、ある音圧を越えるとピークが出てくるのが短所です。しかし、それが性能の良い商品開発に於いては却ってプラスに作用するのです。

 特にインシュレーターの製品開発に於いては、問題点があればそのピークが即不愉快な音になって現れます。ですからローゼンクランツでは性能の良いインシュレーターを作ることが出来たのです。

 ある時期その金臭い音を解決するのに、自然素材である漆を仏壇屋さんで塗ってもらう事により、程よい内部損失の確保に成功しました。音楽を聞く事に於いてはこれ以上の物は無いと言えるほどであったのですが、ピークの嫌な音を検出するモニターとしては逆に性能が落ちたのです。

 聴き心地の良いスピーカーを作ることより、その時は性能の良いインシュレーターを作る事の方が私の仕事だと判断して、なお今も敢えてアルミコーンでモニターしております。

 ● 理想のスピーカーのコーン紙は?


 ビクターが木の薄皮をプレスしたコーン紙の開発に成功しました。そのユニットの写真を見ただけで喉から手が出そうになるほど欲しくなりました。私にはそれから出てくる音が容易にイメージ出来、果てしない可能性を感じるのです。木そのものが持っている不均質な繊維の粗密がピークの発生を抑え、振動の伝播速度においてもその繊維がムチのようにしなり速いものがあります。
  
 ビクターも10年ほど前からアルミコーンスピーカーを開発してきており、その過程の中で共振の問題に取り組みユニットの中心を偏芯させたオブリコーンという物を商品化しております。上下に大きく質量の違う振動版を前後運動をさせるこの構造には感心出来ませんでしたが、この度生まれてきたウッドコーンの開発にこぎつけた裏に、こうした冒険心に満ちた振れ過ぎのものがあったからこそと思います。テクニックに溺れた手法から、身近な木という天然の素材に目をつけ、匠の技によって開発成功にこぎつけたのはビクターという音を愛する企業風土の為す業でしょう。

 嫌うのではなく、振動と仲良くする

 ● スピーカーユニットとエンクロージャーの関係


 エンクロージャーは振動してはならない!。こう唱える技術者の考え方にすべてが反対というわけではありませんが、必要以上に剛性を高めると音楽が金縛り状態になり、必要な音楽振動まで殺してしまって面白くも何ともないものになってしまいます。何事も過ぎたるは及ばざるが如しです。

 ローゼンクランツのスピーカーは各ユニットが生き生きとそして最大のエネルギーを発揮できるように、バッフルのセンターに取り付けられているのが特徴です、これは箱とユニットが一体となって呼応するように動く事を狙ったものです。すなわちユニットに帰り波として戻ってくる音楽振動の時間軸を揃えてやるという考えです。そして、箱その物(6面全て)も平面スピーカーであるという考え方、楽器としての捕らまえ方もして音を追い込んでいます。

 ● 逃げ道のない振動のループ状態


 アンプ製作時においても同じような経験をしました。わが社のパワーアンプ(P-1EX)の開発途中のことですが、電源部とL,Rの信号部分をシャーシーの部分において部屋分けをする為(S/Nを上げる)に、建物の梁と壁の役割のように、上下インシュレーターのマイクロベース8個でパネルを挟み込む構造をとりました。やがて、記念すべき第1号が完成するわけですが、ここからが苦労の始まりなのです。
パワーアンプP-1EXの内部

 期待に胸を膨らまして初めての、音出しです!!。その瞬間は、今でも覚えていますが、いまだかって聴いたことの無い、S/Nに優れた音でした。一瞬これは、『凄い事になった』、『ヤッター』と思いました。ところが、その時は興奮していますし、やるだけの事はやった、という気持ちですから、自分の製品を客観的に分析したり、批判したりするような冷静さなど持ち合わせていない訳です。

 懇意にしているお客さん二人と一緒に聴くのですが、なんと!、音出しして、一曲聞き終え即座に、そこで二人とも”シラー”として、前の安いプリメインの方がいいというのです。確かに性能的には、圧倒的に良いのは認めるけど、音楽として聞いていて全然楽しくないと言うのです。

 ● 音楽に必要な揺らぎ


 全身に力が入りすぎ、『ガチガチ』の感じの音といったらいいでしょうか、『潤い』とか、『ゆらぎ』とは程遠い音です。剛性を強めすぎた結果だったのですが、この時も私は判断を誤ってしまうのです。インシュレーターのハンダの量を減らせば、ゆらぎは出せるとみました。その為に100個近くもあるインシュレーターを全てを分解し、入れ替え、組み直す羽目になるのです。しかし結果は、またも空しく、その傾向は何一つ改善されませんでした。情けなくて何日かは、力が抜けてしまいました。

 当初の設計の段階で、その壁の締め付けや、止める個所の調整で最終的には音の微調整をするつもりでしたので、思い切って底の部分を遊ばしてみました。予想どおり結果は大成功でしたが、前回の見込み違いで、インシュレーターのハンダの量を減らした弊害として、以前には無かった真鍮の固有の音が出てきました。「こうなったらもう一度、ハンダの量のバランス微調整を徹底的に取り直してみよう」。すると、その甲斐あって以前より抜けの良い物に仕上がったので、何が幸いするやら解らないものです。

 歯と歯茎構造インシュレーターの進化

 ● 微弱音が出ない原因


 当社のベストセラーインシュレーターである(PB-REX)のごく初期のころの事です。まだ金属の響きの方向管理も垂直方向のみです。この頃は音決めをする方法として、使用するハンダの量(線径1mmの長さ)の調整によってやっていました。しかし、音に結構なバラツキがあるのが気になっていました。特に最後の音の消え際が綺麗に伸びない感じの物があるのです。

ハンダの溝をきれいに掘る専用治具を開発する。 専用治具を開発する前のもの(左)と開発後のインシュレーター ベストセラーインシュレーターの最新版「REXU」(\15,000/1個)

 それらの症状が顕著にある物をじっくりと観察しますと、溶かしたハンダが冷え固まる時に凸凹の状態になります。その山と谷ができる事によって振動が早く止まる所とそうでない所がおこり、せっかく寝た子を起こすような感じなのです。この時の経験が後の私を大きく成長させる事となるのです。

 ● 振動は一斉に始まり、一斉に止まらなければならない


 イメージとしては軍隊の行進の時、「全体〜い止まれ」。と号令をかけた時に”ピタッ!”と止まらないで”バタ、バタ、バタ”とだらしなく止まる感じです。この時振動は一斉に立ち上がり、一斉に止まらなければ、アコースティックな響きはとても表現できないと思いました。問題は瞬間の時間軸の追込みをする事です。量で音決めしてきたノウハウの蓄積は全て捨て、新たにこれからは掘る深さの調整によって音決めをする事にチャレンジです。

 ハンダの溝をきれいに掘る専用治具を開発するやいなや、手に血豆を作りながら音の良い深さを見つける為のヒアリングが何日も続きました。アコースティック楽器の音の消え際が美しい響きとなって感じるのと同時進行で、打楽器系の衝撃音も目に見えるような形で力強さが増して来ました。

 それに伴って同じボリュームなのに音が大きくなってくるのです。今まで如何にエネルギーロスがあったかの証明です。これを機に、最小の力で最大のエネルギーが取り出せる事をメインテーマに掲げるようになったのです。

A&Vvillage 5月号 第61号 P64〜P65に掲載されています。

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