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新記録の秘話 星野がマー君を説教した日

Yahoo news THE PAGE 8月10日(土)0時9分配信

お前なら30勝出来る!

マー君がプロ野球新記録となる開幕16連勝を果たした。8月9日、Kスタ宮城で行われた、対ソフトバンク戦に先発した田中将大が92球で4安打無失点のまま7回で降板すると、8、9回を小山伸、青山、金刃、斎藤隆の4人が決死のリレー。

マー君の勝ち投手の権利を守った。打線の援護に完封リレー。楽天の一丸ムードを象徴するような記録達成ゲームとなった。昨年から続いている連勝「20」も鉄腕、稲尾和久、巨人の松田清の記録に並んだそうである。

ひとつの歴史が動いたと言ってもいい。私は、その一報を目にした時、楽天の星野監督から聞いていた“マー君を説教した日“の秘話を思い出した。あれは、去年の暑い日だった。マー君が、夏以降、肉体的な不調もあって勝てなくなった時期である。

星野監督は、珍しく佐藤道ピッチングコーチと2人で、ブルペンに出向いて田中将大投手をつかまえた。田中を一人前と認め、ほぼ放任主義を貫いてきた星野監督が、そのエースと、直接対話を持つことは異例の出来事だった。

「もし今のおまえのボールがオレにあれば30勝できる」

そういう謎かけのような問いかけから説教は始まったという。

「おまえが兄と慕うダルビッシュを見てみろ。アメリカに行って大きく変わった。進化したと言っていい。ストレートだけでは通用しないと知ると、頭を使ってピッチングをやっとるやないか。

稲尾さん、杉浦さんの中4日、中3日という時代と違って、今は中6日も余裕がある。ピッチャーとしての環境は、はるかに恵まれている。確かにバッティングマシンや練習量が増えたことで、バッターのバッティング技術は向上している。

1、2番もブンブンと振ってくる。昔のように下位打線に対して楽にピッチングのできるという時代ではない。しかし、おまえのボールがあって、頭を使えば、もっと勝てる」

マー君は神妙な顔をして、その話に耳を傾けていたという。

「つまり配球とリズムや。今のおまえに足りないものは」

そして星野監督は、もう一度、念を押した。

「言うとくぞ。おまえならば20勝、30勝を現代野球においてやれるんや」

今季のマー君のピッチングは、まさに配球とリズムである。

球威に溢れる直球を軸に、今季は、ドロンと大きな緩急を使うカーブを覚えた。他球団のスコアラーに聞くと、このカーブが今季のマー君のミソだとも言う。そこに伝家の宝刀のスライダーに、タテにヒュンと落ちる140キロ台のスプリット。

一人ひとりの考えた配球に加えて素晴らしいのが、ゲームトータルのリズムというかマネジメントである。つまり走者のいない場面、点差、打順などを考慮しながら、メリハリを利かしているのである。まさに星野監督が“説教した一日”が、そのまま、マー君にピッチングになっているわけである。


配球とリズム

この日も、課題のひとつである立ち上がりに一死三塁のピンチを迎えた。だが、内川に対して、スプリットを多投しておき、ウイニングショットに使ったスプリットをファウルにされるが、根負けすることなく、最後は149キロのストレートをインサイドへ。好打者、内川が、たまらずスイングアウトである。

七回にも二死三塁のピンチを背負ったが、ラヘアに対してインサイドに厳しいボールを見せておいて、2球目にフォークでストライクを稼ぎ、最後、外に投げ込んだストレートは154キロを示した。外国人選手は、ここまでの内外の配球と緩急をつけられると手も足も出ないだろう。

残り11、12試合を投げると推測すれば、星野監督が予告した20勝投手は見えてきた。もし20勝を成し遂げれば、パでは2003年の斎藤和巳(当時ダイエーホークス)に並ぶ(セでは同年の井川慶=当時阪神)。

21勝に届けば2008年の岩隈(当時楽天、現マリナーズ)、1985年の佐藤義ピッチングコーチに並ぶ快挙となる。その佐藤義コーチは、そういう実体験を踏まえた上で、“説教をした日”に「オレもおまえのボールがあれば、今でも20勝してみせる」、と笑っていたという。

そういう経緯を知る私は、なんとく嬉しくなって星野監督に連絡を取ってみた。

「言った通りでしょう。配球とリズム。考えて投げるようになった。でもまだまだよくなりますよ。それとね。彼は性格がいい。威張ったようなところがないから、みんなに好かれる。彼が投げると打線が打つでしょう。逆転劇や、連勝が打線に救われた場面も何度かありました。不敗神話とか言われているけれど、そういう信頼感も無関係じゃない」

長らく広島番記者を務めていた私は、山本浩二が入団する頃の縁で、東京6大学の3羽トリオとして星野監督が、明大からドラフトされた大昔から旧知の仲である。楽天監督に就任以来、この2年間の苦労を見聞きしているだけに、ついつい取材にも熱が入る。

マー君の記録の勢いで、このまま優勝へ突っ走れますかな?

そう聞くと、「何言ってんの? 野球界は何が起こるかわからん。まだまだ試合数は残っている。毎日、必死だよ」と、逆に叱られた。

(文責・駒沢悟/スポーツライター=元スポーツ報知広島番記者)

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