トップ情報日本国民は日本という国をどんな国にしたいのか?>杏林大学名誉教授・田久保忠衛 「小国転落」回避したTPP決断

杏林大学名誉教授・田久保忠衛 「小国転落」回避したTPP決断

2013.2.25 03:11 MSN[正論]

最高指導者だった人の果てしない暗愚の言動に絶望感を抱いていたせいもあって、新鮮に見えるのかもしれない。東南アジア諸国を訪れた後、ワシントンでオバマ米大統領と会談した安倍晋三首相の軌跡は見事だったと思う。


対中優位を維持する米戦略

訪米が先の方がよかったとか、首脳間の信頼関係が構築できたとかできなかったとか次元の低い論評が罷(まか)り通っているが、それはどうでもいい。困難な国際環境の中で、日本の新指導者が国家として何を志向しているのか基本の型を演じた意義は小さくない。

最大の成果は、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加への政治的な決断だった。共同声明に、「TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税撤廃をあらかじめ約束するよう求められるものではないことを確認する」と盛り込んだ箇所は確かに重要である。が、それはあくまで国内世論の分裂あるいは党内の意見対立を中和する以上の意味は持たない。

一昨年の11月17日に、オバマ大統領はオーストラリア議会で、すこぶる重要な演説を行っている。イラクからの撤兵を完了し、アフガニスタンからも兵力を2014年末までに引き揚げる決定をした米国が、ピボット(軸足)をアジアに移す新しい政策の具体的な内容を明らかにしたのである。

私は、この日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルに地元豪州のロウィ国際政策研究所長のアンドリュー・シアラー氏が寄せた一文に関心を抱いた。米国がようやくTPPで主導権を握るようになったのは、「東南アジアと結び、中国に対して軍事的優勢を維持する戦略の一要素である」と論じていたのである。戦略上の意味を当局者が軽々に表明するわけはないが、シアラー氏の指摘は正鵠(せいこく)を射ているように思われる。

大統領はこの演説で、中国が台湾問題、チベット、新疆ウイグルの少数民族問題、東シナ海の領有権問題で連発する「核心的利益」を皮肉ってか、国際法、国際的規範、航行の自由を「核心的原則」と呼んだ。東シナ海、南シナ海、インド洋などに勢力を伸ばしてくる中国に対し、国際的な法の規範を守れと要求したのである。


本質はピボット政策の経済版

尖閣諸島などの領土問題に関する米政府の姿勢は、一貫していると考えていい。同盟条約を持つ日本、韓国、タイ、フィリピン、豪州の5カ国にインドを含む友好国を加えていくピボット政策には、軍事的、政治的な意味が込められている。あからさまな言い方を米当局は嫌っているようだが、中国を排除した経済のピボット政策こそがTPPだといっていい。

中国大陸と朝鮮半島からの圧力を前に、今首脳会談で同盟の重要性を確認できた意義は大きいが、ひどく気になることがある。米国の内向き傾向だ。根本的には、オバマ政権のリベラルな性格に理由がある。リベラルなニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストの両米紙も指摘するように、2期目のオバマ政権は「覇権国家」から「福祉国家」へと大きく舵(かじ)を切りつつあるのではないか。

大統領は2期目の就任演説で、メディケア(高齢者向け医療保険)、メディケイド(低所得者向け医療保険)、社会保障制度が相互に支え合う仕組みの必要性を強調した。それでなくとも巨額な財政赤字のしわ寄せは国防費に集中する。ピボット政策の軍事面に影響が出ないはずはなかろう。


内向き米国の責任分担せよ

2期目の人事も気になる。ケリー国務長官はベトナム戦争に従軍した後に反戦運動に転じ、外交では話し合いを重視する。指名されたまま上院の承認が得られていないヘーゲル次期国防長官は、米軍の世界的な展開には批判的で、長官に就任したときの主な仕事は国防費削減だといわれている。

「アラブの春」に関連したリビアのカダフィ政権軍への攻撃は、北大西洋条約機構(NATO)として実行されたが、米軍は主導権を握らなかった。シリアの内戦による犠牲者は6万人とも9万人とも見られているが、反政府勢力への支援にもオバマ氏は消極的だ。イランの核開発計画は危険な段階に差しかかっているにもかかわらず、オバマ政権は経済制裁措置以外に打つ手もない。北朝鮮の核実験に対し追加制裁を含む国連安保理決議を目指す方針を日米首脳は再確認したが、中国を引き込んで北を締め上げることができるかどうかも不安だ。

日本や欧州は、安全保障を米国に依存しながら福祉国家の道を歩んできたはずなのだが、当の米国が「普通の国」になりつつある傾向をどう受け止めたらいいのだろうか。日本はいや応なく米国の軍事的役割の一部を担うよう国際環境は動いていく。そのためにも、TPPを取っかかりにして積極的な貿易、投資を増やして日本経済を躍進させなければならない。

仮にTPP交渉参加が決められない場合、日本の将来は極東の一小国に沈み込んでいくほかない。今回の日米首脳会談は、その危険を明確に回避したのである。(たくぼ ただえ)




民主党時代に冷え切ってしまった日米関係の事を考えれば、評価に値する首脳会談だったと思う。真の最重要国と受け止めているのであれば晩餐会が用意されたはずだ。仮に、TPPに関して煮え切らない意思表示をしていた事を思うと、先ずは信頼の半分は取り戻せたと思うので良しとすべきでしょう。

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