トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅>2002年6月1日 佐賀県 S.Y様

2002年6月1日 佐賀県 S.Y様


 Dougさんところで、インシュレーター1発であまりにも良い音に変身したものですから、急きょYさんのお宅にもお伺いすることになりました。先ほど降りたインターのところを通り過ぎ、ほんの10分程車を走らせると、もうそこは焼き物の町有田です。着いた所はタイムスリップしたような風景です。普段見慣れているコンクリートのビルばかりの光景とは違って日本の原風景そのものです。

 小川沿いの狭い道を大きくUターンするように入りますと、そこには大きく開けた中庭がありました。左手には焼き物の見本を積んで全国をキャラバンで回るのか大きなワンボックスの商用車が6〜7台ありました。

 正面には大きな数奇屋風の二階建の建物があります。案内されて二階に上がりますと、「何と!私の目に入ってきた光景は絢爛豪華な有田焼の海!」。それほどおびただしい量の焼き物が一面に展示されてありました。


 わび、さびの世界のシンプルな青磁から、金をふんだんに使った豪華な大皿まで、正に日本文化の縮図のようでもあります。こんなことも出来るのか?と言う手の込んだ形をした香炉には驚きました。どのような文化的背景があって、これほどまでの美学が発達してきたのか?私は非常に興味が湧いてきました。


 焼き物で作られているスピーカーのホーンをさっそく手にとって拝見させて頂きます。細かな模様が書き込まれているのを見て、「これは全て人の手による筆書きなんですか?」とお尋ねすると、Yさんは手にとって「この部分は転写ですね、ここらは手書きです」。と教えて下さったのを注意深く見ると、なんとなくそうなのかなぁと言うぐらいで、非常に良く出来ていて見分けはつきにくいです。


 このような形の物を焼くのは割れやすく大変難しいそうです。そうした説明を受けながら目の前にある自作のスピーカーの音を聴かせて頂く事になりました。ホーンの奥についているドライバーはJBLのLE-85で、ウーハ-ユニットはTAD、ツイーターがエレクトロボイスになっております。

 出てくる音はご本人曰く、「焼き物くさい音がするんですよ!」と仰るがそうでもありません。それより私の耳には、スピーカーの下に御影石のボードを敷いてある事による音の方が気になって仕方ありません。すなわち硬い石に反発した音が常に逆流して音を濁してしまうのと、振動がぶつかり合って音楽エネルギーを減衰させてしまっているのです。


 「床の木が弱いからこのようにしたんだけど良くなかったでしょうか?」。そうです、一見弱いようですけど決してそれほどご心配されるほど弱くはありません。気に入らない音があると、どうしてもその音を消そうと皆さん躍起になるのですが、その方法ですとドンドンと音をつまらなくしてしまい、音楽そのものの魅力が削がれてしまうのです。

 この部屋に入った瞬間に感じたことなのですが、焼き物には職人さんの魂が一つ一つ込められているはずです。その「魂」とこの「建物」と「音」が渾然一体となって建物全体に響き渡るような音を出してやることのほうが大切なのではないでしょうか?と感じたままをお伝えしました。


 その為に、この広大な木の床を響かせてやるのです。そうすれば雄大な音になると思いますよ!。更にその上に、有田焼で作ったホーンの音を意識的に響かせ、有田焼ならではの個性ある音を出してやる。ここでしか出ない音が必ずあるはずです。そういう考えのもとで音作りをされたら如何でしょうか?

 と、以上のように、その場で感じた私なりのことを思うがままに述べさせていただきますと、Yさんは「ある雑誌社が6月の中ごろに取材に来るので、その時までに良い音にしたいですね」と仰る。そんなことで話はとんとん拍子に進みもう一度有田に近々クリニックにお伺いすることになりました。


2002年6月14日 佐賀県 S,Y様 2度目の訪問


 S,Y様の音の特徴は音楽のエネルギーがスピーカーの奥の方へ向かって行くイメージで、聴いていて全く音楽を感じることが出来ませんでした。一つ一つの機材の嫌な音は決してありませんが、ただひたすら音楽が遠いと言ったらお解り頂けるでしょうか?、とにかくジレッタイ音なのです。

 約2週間後に本格的なクリニックの為に今日は2度目の訪問です。先ず最初にやったことはケーブルの方向性のチェックです。先ずパワーアンプからスピーカーのネットワークまでのケーブルを確認しますと、これが反対でした。ベルデンのベストセラー、確か1,800円/mの物だと思います。BELDENの文字の方向と反対が正しい向きです。

 以前に同じ佐賀のM様のお宅で使っておられたBELDENの2芯同軸ケーブルも文字の方向とは反対でした。その後、ネットワークから各ユニットに配線されているケーブルも見事に低・中・高と全て反対に結線されていました。これらを1本ずつやり直す度に音の確認をしていただきます。途中からJAZZ喫茶Dougの立石さんもやって来られ、その効果の程に驚いていました。

 次はピンケーブルの番です。プリパワー間に使っている物ですが、黒い被覆をしたオルトフォンのケーブルで、これも「ortofon」と書かれた文字の方向とは反対でした。ただ一つだけCDプリ間に使っていたPCOCCと書かれたオーディオテクニカのピンケーブルだけが、印字された文字の方向と聴感上良いと感じる方向とが一致しました。

 機材のACケーブルはどれも交換できないタイプですから仕方ありませんが、これで一応ケーブルに於いては確認出来るところは全てチェックしましたので一安心です。案の定、この時点で出て来る音そのものに音楽が溢れ始めてきました。S,Y様は驚きの連続です。

 次にスピーカーの下にPB-BIG JAZZを置いてやり、尚且つホーンの位相合わせとレベル合せをしてやります。途中車に荷物を2回ほど取りに行ったのですが、その都度、オーディオの置いてある2階のフロア-だけではなく、音が1階のロビーまできれいの響き渡るようになってきています。そんな調子ですからボリュームはいくらも上げていません。

 最後に余禄ですが、ローゼンクランツのピンケーブルPin-1S8N(perfect)も体験していただきました。こうして限られた時間の中でのクリニックを終えたのですが、全ての物を買いたいけれども一度には無理なので、この度は手始めにBIG JAZZを6個買いたいとのこと、後は徐々に仕上げて行くということになりました。

 私がお邪魔するまでは、「焼き物の癖のある音がする」と、邪魔者のように思われていた有田焼で作ったホーンが、今では誇らしげに見えるから不思議です。



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