トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅オリジナルノーチラス・・・大手術の一部始終!

オリジナルノーチラス・・・大手術の一部始終!



 オリジナル/ノーチラスのエネルギー調整


 M.Tさんからスピーカーユニットのエネルギーの方向性を見て欲しいとの依頼を受けました。そのきっかけは、オリジナルノーチラスのウーハーユニットを傷つけてしまった事で、メーカーサービスによるユニット交換の必要が生じたからです。ウーハー以外の後ろに角の出ているユニットに関しては押し込んで止めているだけなので、回す事が出来るそうなんです。

 そのついでにシステム全体のセッティングもやる事になっております。ローゼンクランツ製品については、既にトランスポートP-0の専用脚とノーチラス用にサウンドステーションを導入しておられます。前回お伺いした時に比べてアンプが大幅にグレードアップしています。値段のことはよく分かりませんが、どれも1個当たり300万円ぐらいするそうです。

 それにピンケーブルがこれまた1本100万円以上もするNBSです。4wayマルチですから、コンバーター、プリ間、プリ、チャンデバ間とで合計6本にもなります。音を良くする為にはこれ以上の方法は無いといってもいいぐらいのオーディオコンポーネントの精鋭達です。


 3人がかりでスピーカーユニットの交換


 とにかくスピーカーの修理が完了しない事には、ユニットの方向を見る以外に私の出番はありません。惜しげもなくウーハーのゴムのエッジ部分にナイフを入れ、無残にもがい骨状態にされてしまいました。貧乏性丸出しの私は、「15万位するんですか、このユニットは?」と訊ねますと。びっくり仰天!、その倍以上38万円だそうです。

 アルミのコーンが少し凹んだだけなのに全ての物を捨ててアッセンブル交換というのは何とももったいない話です。これぐらいの品を買う人はそんな事を言ってはいけないのでしょうか?。彼らがウーハーを取り外している間にメモを片手に私は各ユニットの方向をチェックします。

 これから3人がかりでウーハー交換です。記念にオリジナルノーチラスの中がどうなっているのか写真を撮りました。



 初めて試みるオリジナルノーチラスの方向性調整


 『カイザーさんこれからウーハーを取り付けますので、どの方向に付けたら良いのか指示願えますか?』。

 本体側とユニット側に白いテープを貼り、軸上に揃えるように取り付けてもらいます。左のウーハーが運良く11時の方行でしたので、右はそれの対を成すべく13時に向くように取り付けます。残りのミッドローとミッドの調整ですが、左のツイーターが残念にも6時を向いており、右もまた下方向きの7時半です。構造上動かす事の出来ないツイーター部との辻褄を合わせる為に、11時の左のミッドハイに対して右のミッドハイは12時にします。ミッドローは左右ともウーハーと合わせるように11時と13時に合わせます。これで完璧です。


 おっと危ない!、ここで一寸した忘れ物に気づきます。ミッドローユニットを外した際に振動対策用と思われる緑色をしたりんごを包むようなネットカバーを付けるのを忘れていたのです。もう一度ミッドローユニットの角を後ろから押して外し、ネットを付けて装着し直しです。そうなんです、ユニットのフレーム部分にはネジで止めるところは何もなく、ただ押し込んであるだけなんです。これには驚きました。それ相応の工作精度の高さがないとこれは不可能な工法です。


 聞くところによりますと、各ユニットの特性に合わせてチャンネルデバイダーの素子の定数が組まれていて、セリアルナンバーにて過去の履歴がきちんと管理されているのだそうです。ですからスピーカーユニットの修理に関してはチャンネルデバイダーも同時に調整の対象になるのです。


 セッティングという仕事の大変さ


 『一応修理が完了しましたので、きちんと音が出るか確認して頂けますか?』。

 そのマランツのサービスマンの声に促されるようにM.Tさんは結線を始めます。スピーカーから出ているマルチケーブルが短いので、ラックとスピーカーを5センチと離せないのです。この状況を見ていて、果たしてこの後音作りが出来るのか心配になって来るのでした。音は4つのユニットから問題なく出ているので、修理としては完了という事になるのでしょうが、しかしそれにしてもまとまりのない音です。ご本人もそう感じたのでしょう、顔が少し曇り気味でした。


 この時点でサービスマンの役割は終えたので、彼ら3人は帰って行きました。でも私の仕事はこれからです。音が滞りなく出た後、「どの音がどのように」という細かな施主の要求に応えなくてはならない大変な仕事なんです。どんな難題に出くわしても解決出来るだけの高度な感性とスキルを持っていなくては満足して頂くことは出来ません。すなわち、施主の『感動した!』という満面の笑みを引き出さなければお金を貰う事が出来ないのです。


 電源の質を上げるとセッティングは更に高度で難しくなる


 それにしても、このところ電源の強化工事をしたところによく出会います。分電盤からは5つの回路に分かれており、15Aが3ヶ所、30Aが2ヶ所になっています。そのブレーカーから出ているケーブルの先端にインレットコネクターが付けられ、直接機材に繋がれています。それも最短距離でですから、左右のアンプにおける電源ケーブルの長さも大いに差があります。 

 また結線は、それぞれのスピーカーのすぐ後ろにステレオのパワーアンプを2台置いていますので、4wayマルチではアンプ内部の左右のパワーブロックの仕事率が違います。バランスが命と考える私の理想とは異なるものです。そんな事が音に影響しているのかどうかは現時点では分かりませんが、つないだばかりの今の音は決して良いものではありません。そんな印象から始まった今日のクリニックでもありセッティングです。


 施主の希望の音を出すのがセッティングの仕事


 何はともあれ、施主ご自身が「どんな音を好んでおられるのか?」、「今の音をどのように変えたいのか?」、また、「現状の音をどのように認識しておられるのか」等、思う事を全部出してもらいました。オリジナルノーチラスのオーナーにしては珍しくロック、フュージョンも好んで聴かれるのです。もっとキレのある音であり、フォーカスも1点に合わせ込めないか?、またボーカルは生々しくして欲しいとも仰います。

 数々の要望を伺った方がより微細に音を作り出せますから、私としては却って楽になるのです。先ず初めに手がけたのは各機材の送り込まれる電源部にスポットを当てました。ご本人が最初に配電しておられたのは、「信号の流れの順に結線して行く」という私の考え方を参考にしたとの事ですが、トランスポートのみに15Aを1回路、次の15Aにコンバーターとプリが同居する形でつながれています。そして、2台のチャンネルデバイダーに3番目の15A、残るはそれぞれのチャンネルのパワーに30Aが用意されています。

 かなり練られたプランですが、この中でひとつ気になったのがコンバーターの扱いです。私はプリと同居させるよりも、コンバーターはトランスポートとの同居を薦めました。ご自分で何度も試行錯誤されたのでしょう、手馴れた手つきでいとも簡単に結線変更されました。


 内振りが過ぎるセッティングからは力のある音は出ない


 良い音を求めてスピーカーの位置探しをするには、一旦結線を外さないと動かす事が出来ません。慎重にイメージを高め前後左右の位置出しをします。誰の影響か知りませんがどこのお宅にお伺いしても、45度位の角度でスピーカーを内振りにしている所がほとんどです。今日のM.Tさん宅もそうなんですが、そのセッティング方法ですと、決まって力のない音であり、音楽のメッセージが聴き手に届いて来ません。

 いつものように間隔を狭め、僅かに内に振るだけで部屋の空気が一気に動き始めたかと言わんばかりにスピーカーの鳴り方が力強いものに生まれ変わります。もちろん一番肝心なスピーカーの前後の位置決めは細心の注意を払って直接音と間接音の比率から弾き出します。 もっとアグレッシブに音を前面に出して欲しいと言われるのですが、このスピーカーの前後のエネルギー比率は元々2:8位です。でも、私のセッティング力で目一杯引き出してやれば4:6まで可能です。

 『そんな事が出来るんですか?』。

 「出来ます!、最後の結果を見ていて下さい」。   


 今日のシステムは、F-1の車で公道を走るようなもの


 とにかく今日のシステムには遊びが全く無く、ミクロの調整ポイントにしない限りは音楽が顔を覗かしてくれません。理詰めで何の文句の付けようもない完璧なシステムです。それだけは間違いないのですが、逆に完璧すぎて駄目な例なのです。一言で言い切ってしまいますと、誰の手に掛かってもこの高度なシステムは鳴ってくれる事の無い10億分の1の正解率と言ってよいほど手強い相手です。

 長所よりもセッティングの欠点を洗いざらい暴き出してしまうので音楽を楽しむどころか苦痛にさえなってしまうのです。ここまでの完璧なシステムはちょっと他に例がないでしょう。道具が凄過ぎて使い手がいない例です。そんな事もあって今日は一番最初に電源部のきめ細かな調整からやったのです。でも未だその効果は微々たる形でしか見つける事は出来ません。   


 音のカラクリを知り、それに忠実にありさえすれば必ず鳴ります


 でも私は全く慌てる事無く、一つ一つ確実に調教して行くのみです。最後の最後にどんでん返しが起こり、音楽の別世界が扉を開けてくれるのを確信しているから出来る事なのです。

 次なる処置は60キロもあるパワーアンプをラックから下ろし、それらを支えている棚板の響きの方向をチェックし良い音のする向きに置き換えます。その時上のパワーアンプと下のパワーアンプも入れ替えてやります。低域と高域の組み合わせの相性と思って頂ければと思います。とにかく一つ試みては試聴をして頂き、施主さんの希望とする方向への変化であるのか常に確認させて頂きます。ですから敢えて左の片側だけ処置して聴いて頂くのです。

 段階を追う毎に効果の現われ方が顕著になってきます。続いて右側のラックの調整に入ります。こちらは棚板は2枚ともO.Kですが、ラック本体の向きが反対です。従って一旦アンプを下ろし180度回して改めてセッティングし直しました。この時重心がラックの脚4本にバランス良く掛かるように慎重に置いてやります。高度なセッティングですから音出ししながら1ミリ単位の微調整による音の違いを体験して頂きます。大分音のにじみが取れ力強い音と共にきれいな楽器の音が出始めました。ドラム、ベース、特にピアノの音が一気に本物と錯覚するほどリアルに鳴っています。


 加速度組み立ての効果たるや如何に!?


 ここまで来たら一気に攻め込みます。中央のラック、すなわちCDトランスポートとコンバーター、プリアンプの調整です。特にトランスポートのP-0sには当社の専用脚RK-P0を装着してくれていますので出血大サービスをします。それは4本の脚の加速度組み立てを施し、その効果がどう変わるのかを見て貰おうというものです。左前の脚を除いて適材適所に配置換えします。もちろん下のスパイク受けも同時に組み替えます。とにかく同じ脚ですが最高のパフォーマンスを発揮するように組み替えた加速度組み立ての効果や如何に?。


 目からうろことは正にこの事でしょうか、M.Tさんの口はあんぐり開いたままです。

 その結果は、音楽に魂が宿るような変化の現われようなんです。

 「実は、プリとコンバーターを上下に直重ねしていますが、

 これも入れ替えた方が良いでしょう」。

 「そのついでにゴールドムンドの8本のスパイクを全部外し、

 それぞれに最適な脚を組み直しましょう」。

 「出来ました。どうぞお好きな曲をお聴き下さい」。

 M.Tさんは音楽が思い通りに仕上がって行くのを目の当たりにし、

 子供のように顔をほころばせ、私のセッティングに驚いてばかりです。


 最終調整の前の一休み


 各機器の調整が終わったところで一休みです。ここらあたりになって来ますと仕上げの最終段階ですから、微細な音一つ見逃すことも出来ません。その為には、音が落ち着くまでに最低でも10分位は待つ必要があるのです。その間エージングに都合の良い激しいハードな曲をかけておきます。


 お茶を入れて下さったので、息抜きに話題を少し変え、突っ込みを入れてみました。

 「M.Tさんは完璧主義者でしょう?」。

 『そうなんです、どんな事も納得が行くまでやらないと気が済まない性質なんです』。

 「私もどちらかというと同じようなところがありますのでよく分かります」。

 「ですから、そこらあたりの事も計算に入れてのセッティングをさせて頂いているんですよ」。

 『忘れるところでした。スピーカーの前にホットカーペットを普段敷いているんですが音に影響はありませんか?』。

 「大丈夫です!、少々の物は動かされても音に影響が出ないようなセッティングをしますので安心して下さい」。

 その声と同時に干していたのを庭から取り込み実際にあったとおりに置いて貰いました。

 98%の仕上がりなんですが、どうしても左の音が右に比べて物足りません。エネルギーと共にフォーカスも甘い・・・。

 さて何が原因なのか?。今までの変化をぶりから見ますと左右のラックの位置決めだけは私は触っておりません。

 視覚的に見てもそんなに拙いほどではないのですが、微調整の価値はありそうです。音を聴きながら集中力を高めイメージした場所は前に11ミリ、右に11ミリ動かしてやるとどうやら良さそうです。

 「集中力で1ミリと狂わさないで動かして下さい」。

 最後の最後は私がやるよりもご本人にやって頂いた方が、処置した方法と変化した音との関係を感覚として掴んで頂き易いので頑張って貰いました。

 出ました!。こんな音がステレオから出ても良いのかというような素晴らしい音楽が部屋一杯になりました。   


 ケーブルもルネッサンスを迎えたローゼンクランツ


 ここまでは何一つ物の力を借りる事無く腕1本で導き出した音です。何一つといっても事前にトランスポートの脚とサウンドステーションを買って頂いていたから出せた音ではあるのですが、今日も折角お邪魔したのですから、何か一つはセールスして帰らなければ御まんまの食い上げになってしまいます。本日の切り札は近い内に発売いたします30,000円のピンケーブルを聴いて頂けませんか?。特にケーブルのネットに拘って開発したのですが、色の持つエネルギーが今回の開発のテーマです。


 繋いだ途端にM.Tさんの目の色が変わりました。

 こんな筈は無い!。

 何かの間違いでは・・・・・?????。

 では、もう一つ上の70,000円の物を聴いてみて下さい。

 これ(Pin-RG2)には参ったようです。

 今日はとりあえず1本買いますが、その内全部入れ替えるつもりです。

 そんな形で終わった今回のクリニックでした。 


 ありがとうございました


 ----- Original Message -----
 From: "M.T"
 To: <info@rosenkranz-jp.com>
 Sent: Saturday, December 04, 2004 1:45 AM
 Subject: ありがとうございました


 貝崎様

 M.Tです。無事に帰れましたでしょうか。
 本日はどうもありがとうございました。

 それにしても右ラックの向きとフロントエンド達の足と最後の11mm、
 まるで魔法を見ているようでしたよ。
 マジックハンドなんてものじゃなく正にゴッドハンドですね。
 音がおもしろいように向上していくのには本当に驚きでした。
 次はまず受け足、そしてチャンデバ以降のケーブルですね。


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