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パラゴンの問題点を解決して欲しい



 パラゴンのウーハーのロールエッジの凸部外側の一部がバッフルに当たっているという問題点について以下のような内容の相談を頂きました。

 ------ Original Message -----
 From: K.H
 To: カイザーさん(貝崎さん)
 Sent: Wednesday, April 22, 2009 12:32 AM
 Subject: パラゴンの件、知恵をお貸しください。

 カイザーサウンド
 貝崎 様

 貝崎さん。
 K.Hです。

 パラゴンのことで、貝崎さんの知恵をお借りできないでしょうか。


 添付写真はパラゴンのウーハーの取付け部分ですが、バッフル板の丸い穴がウーハーのエッジ外周より6ミリ程度狭く、またエッジがカマボコ型の形状のため、バッフル板に接触しています。(特にホーン内部から撮影した写真アップを見てみてください)


 この現象を回避するために、ウーハーのガスケットとバッフル板との間に、何か円状の物をかませるようにしようと思うのですが、その素材や形状の設計をお願いできないでしょうか。


 詳細は、また週末にでも電話します。
 よろしくお願いいたします。

 K.H


 ハイエンドからまたも一人ヴィンテージに


 K.Hさんとは長いお付きをさせて頂いておりますので、全幅の信頼を頂いてのお任せ相談のような形で承りました。彼は長くハイエンドを中心に楽しんでいましたが、この最近ビンテージに大変身したばかりです。

 そのパラゴンを手に入れてほぼ半年、色々と問題点が浮き彫りになってきたので相談を頂き、特注のスペースリングが出来上がると同時に大阪までクリニックに来て欲しいとの依頼を受けました。


 ウーハーのスペースリングをワンオフにて製作


 ご本人にユニットのサイズやネジ穴の配置等を計ってもらったのではちょっと心配だったので、外したユニットを送ってもらい、私が採寸し、それに合った特注スペースリングをデザインしてワンオフで出来上がったのが以下の写真です。


 材質をアルミにするか、鉄、あるいはステン、はたまた真鍮にするか、振動の流れ方や音色等を考えて最終的に3,2ミリ厚の鉄製リングに決めました。

アルミでは音が頼り無げで、ステンだと音がキツめで冷たくなり過ぎるだろうし、寸法次第では真鍮も鳴き過ぎが気になります。時代背景からして熱い音であり、くすんだ音色の鉄が最適と見ました。

 しかし、鉄の音がモロに乗るようでも困るので、そこは黒子に徹するぐらい控え目になるよう黒の焼付け塗装にしました。


 ロフトのあるリスニングルーム


 賃貸マンションですから贅沢は言えませんが、K.H さんは何とも難しい部屋を選んだものです。私が近くに居れば絶対に反対したと思うであろうほど厄介な部屋です。続き間の間仕切りを取っ払っているので、ダイニングと一体となったL字型の空間の広さは問題ありませんが、如何せん部屋の幅がパラゴンを入れるには狭過ぎます。


 また、右手の上にロフトの部屋が長く続いているので、これでもかと言うほど左と右の音に違いがあり過ぎるのです。本来ならパラゴンほど鳴らし易いスピーカーは無いのですが、左右一体となっているが故に今回に限っては裏目と出たのです。でも近々新居に引っ越しするそうだから気にしない事にします。



 スピーカーの”カイザーセッティング”


 2階の窓からクレーンで入れたそうですが、置かれているスピーカーの位置はと言うと、前後左右共カイザーセッティングの谷間に当る音の悪いポイントにあります。逆相の最小単位である20数ミリずつ右に、前に微調整しました。パラゴンはあまりにも大きい為一人で動かす事は不可能です。従って音の良い位置を動かしながら探し出すという方法が人の手伝いが無い限り出来ません。


 ケーブルの長さの調整で低、中、高音のエネルギーバランス調整が可能


 次の問題点としては、低音と高音がお互いにそっぽを向いているようなバラバラな音を調整しなければなりません。今使っているケーブルが物凄く短いピッチで拠り合わせた物なので直進性には難があります。


 ここは私がヴィンテージ用に設計したメーター当り650円のMusic SpiritのSwingに交換する事でO.K。更にアップテンポ気味な音になるような長さにして解決を計りました。これぞ最小のコストで最大の効果を上げる方法です。


 ユニットのエネルギーの方向性を揃える事の重要さ


 左右のスピーカーがくっ付いたパラゴンは究極のラジカみたいなものです。だからステレオイメージはこれほど完璧な物はありません。それ位鳴らし易いスピーカーです。

 出来過ぎと言っても良いぐらい左右の広がりは素晴らしいのですが、それに比べると高さ方向の表現が大いに苦手であります。特にツイーターが閉じ込められたかのように奥まったところについているので、中音を受け持つホーンドライバーと音が繋がり難いのです。


 特に私が常日頃から指摘しているユニットのエネルギーの方向が揃っていないと、楽器の倍音成分が出難くそれを何とかしようとアンプを変えたり、プレーヤーを変えたり、はたまたケーブル三昧を皆さん決まって繰り返すのです。

 何の事はない、ユニットのエネルギーの方向是正さえしてやればたちどころに解決出来ます。

(処置前)
(処置後)

 結論から言いますと、ボタンの掛け違いに気がつかないまま直そうとしているのですから、間違いを直すには間違いをもって当るしかありません。その答えはただ一つ。いびつな出来の製品しか壷にはまらないのです。故に最高到達地点はどこまで行っても低いままなのです。

 間違いを起こしている核心を掴めていなければ決してゴールには辿り着けません。間違いを正しいと信じて努力するのですから、正解からどんどん離れて行くのは明白です。


 パラゴンの加速度組み立ては15万円で承ります


 中音のドライバーの向きは合っていたのでそのままにしておき、ツイーターの方向性を高さ表現が出るように向きを変えようと試みましたが、塗装膜にくっ付いて離れようとしません。仕方なくタオルを当ててハンマーで振動を加えて外しました。


 続いてウーハーユニットを外して特注で作った鉄製リングを間に入れて取り付けます。この時リングは裏表であり、360度方向をチェックする事は言うまでもありません。ネジの加速度組み立てと同時に施すこの特殊技術はカイザーサウンドが誇る世界で唯一のものです。


 パラゴンのような高価で完成度の高いスピーカーの加速度組み立て処理した音を聴くと、数百万円の価値は充分あると断言します。


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