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ALTEC A5 国産箱によるマルチ

朝の7時に松山を出発し、香川県善通寺で午前9時からダイヤトーンP610のクリニックを済ませ、そのT.Yさんのおごりで昼は美味しい讃岐うどんを頂きました。かけうどんが160円、私は”冷かけうどん大”を頼みました。それでも220円です。お陰でしっかり力が付きました。

これから伺う予定のH.Oさんも午前の部のT.Yさん宅セミナーにも参加頂いていたので、彼の先導する車に付いて行きました。朝からオペルカイザー号はRYOさんが運転手を務めてくれています。自分の車の後部座席に乗って走るのは初めての体験です。前も後ろも殆ど変わらぬ振動の受け方だから思った以上に乗り心地が良いです。

うどんのパワーをもK.Oした”毛むくじゃらアルテック”

1時間ちょっとでH.Oさんのお宅に到着しました。事前にRYOさんのブログで毛むくじゃらのアルテックの事は知っていましたが、私が神と崇めるアルテックが毛だらけにされているのを実際に生で見ると、膝の力が抜けたようになるのでした。

勿論、最初から触る事にはたじろぎがありましたが、それよりも何よりも、ソファーに座ったが最後、体が動かなくなってしまったのです。私はうどんを食べるとすぐにパワーに変わるはずなのですが、H.Oさんの毛むくじゃらパワーには通用せず完全にK.Oを喰らいました。

そんな私の状況を察してか、息子が事の外頑張ってくれました。彼はマルチのクリニックの経験も豊富に積んでいますが、アルテックの大型スピーカーを触るのは今日が初めてです。

H.O邸のシステム診断

私のアルテック歴は604-8HオンケンボックスとA5のマルチです。288ドライバーのえも言えぬ素晴らしくも懐かしい音がしています。しかし、H.Oシステムの低音部分からは全く異なる二つの音が聞こえます。

枯れた魅力あるラッパの音色とゆるいバスドラの音です。タムタムはとても良いのですが、スネアの音もちょっと気になりました。振動面に於いて決定的な問題ありと私のセンサーが反応しております。息子にもそこがすぐに気になったようです。H.Oさん自身もしっくり来ない感じは持っていたようですが、T.Yさんはさっぱり分らないようでした。

如何に低音部とホーン部の位相整合を計るか

その問題点を解決すべく、エンクロージャーとホーンを交互に何度も何度も、少しずつ動かしては音の確認をし、位相整合を計ります。その音の変化ぶりには参加者全員が驚くと共に、何故こんな事になるのか、さっぱり理解出来ないといった表情を見せます。

時折、「お〜っ!」といった、うめき声が耳元で小さく共鳴します。大型ホーンだけに、僅かな角度の違いでもリスナーの耳に届く時には大きな変化となります。

息子も初めてが故に、探りを入れているのでしょう・・・。普段こういう経路を辿る事などないのですが、今回のクリニックでデーター取りに役立てようとしているのは間違いありません。なかなか利口なやり口です。

貼り物についての心構え

さて、鳴ろうとしている物に鳴りを押さえる方向の物を貼るというのは、理の面から考えても貼るべきではありません。可能な限り無くて済むように持っていくべきです。

結果のみに目を向ける対症療法ではなく、根本解決に繋がる道理に適うアプローチに徹すべきです。ローゼンクランツは常にこのスタンスを貫いています。

スピーカーの位置合わせはほぼ終了したので、そろそろH.Oさんの聖域である毛むくじゃらの部分に入って行かざるを得ません。貼るを良しとしても、同じ貼るなら、貼り方、貼る場所、貼る量の見極めが大切です。要するに最小量で最大の効果が上がるようにする事が肝になります。

カイザーサウンドのこうした貼り物チューニングは恐らく今回が最初で最後でしょう。でもやるからには、振動の権威カイザーサウンドの技をとくとご覧頂く事にしましょう。

貼り物は薬にも毒にもなる

ボイスコイルのボビンを基軸に初動エネルギーがセンターキャップに集まり、一斉にコーンのエッジ部に向かってしなりを伴って空気を叩き返すイメージを持つ必要があります。

先ず、ウーハーユニットに貼られている材料の数を6から4に変更します。その理由はこうです。6では内部留保の力が働き、振動を内(中心)に集めるようになってしまいます。

 

そうするとボイスコイルの動きに波打つ揺れが生じ、アンプに歪み電流となって逆流し、歪んだ信号を再増幅します。このようなスピーカーの音を濁す負のサイクルメカニズムが発生します。それを解決する為に位置関係を変えて貼り直す必要があるのです。

そのしなりを抑えるような貼り方をすると、エネルギーは殺がれてしまいます。暴れとしなりの区別が大切です。この見極めが出来る人はそう居るものではありません。闇雲に貼るという行き過ぎた行為は禁物であるとの認識も、この機会に持ち合わせて欲しいものです。

音楽のテンポに乗れない振動は音楽信号を歪ませます。電気を専門で学んだ人にはこの理屈がさっぱり分らないのです。大学ではこんな事を教えてくれません。そうでなかったら高級アンプの振動対策はもっともっと成されている筈です。

最後に

最後のH.Oさんのシステムでは、対症療法の良し悪しと根本解決について、特に貼り物に対する正しい考え方を述べさせて頂きました。貼り物に頼り過ぎている方はもう一度ご自分のシステムを見直してみて下さい。

ここから先のクリニックの様子は同席した方達から色々とコメント等を貰っていますので、そちらを是非ご覧になって下さい。今回の「故郷還元オーディオセミナー」は、3人の方のご自宅のシステムを元にクリニック形式で行わさせていただきました。

ご協力頂きました皆様方には厚く御礼感謝申し上げたく存じます。特に間に入ってご尽力下さった幹事役のRYOさんには更なる感謝を申し上げます。今回の件を大いなる刺激と受け止めて頂き、音楽鑑賞を通して人生を楽しく価値あるものにして頂ければこの上ありません。

出来ればもう一度同じ企画で回ってみたいと考えております。最後に四国のオーディオのレベルアップを望んでいます。

ひで邸 オーディオクリニック
  http://contakuto.exblog.jp/15207749/

カイザーサウンドがやってきた ひでさん偏
  http://kyousyuku.exblog.jp/11965751/




2度目の訪問・・・(特注SPスタンドの納品)

昨年の10月にクリニック訪問したH.Oさんのシステムの一番の問題点はスピーカーの足場にありました。その長さ数十センチ、高さ幅共10センチほどの柔らかそうな木で出来た凸型のベースの3点支持でした。

スピーカーの位置をここと決めて動かさないのなら、置きたいところにベースを決められますが、スピーカーを少し動かそうとしても、そのベースごと動かせないのでどうにも微調整が効かないのです。

スピーカーを動かしては、その都度ベースも微調整しなければならず、じれったい事この上ありません。そのベースをYの字に設置するのですが、スピーカーの底とピタッと決まらず隙間が随所に出来ます。

「このままでは良い事は何一つないので、他のどの部分にお金を掛けるよりも、しっかりした足場の確保に予算を割いて下さい」。との助言を最後にお別れしたのが前回まででした。

しばらくして、ふっと思い出した事があったのです。8年ほど前に同じアルテックの脚を札幌のジャズ喫茶さんに作る際に余った材料を取っておいたのを。それもハードメイプルの一本通しの最高の材料です。
ALTEC 817-A用ウッドブロックの作り直し

「それを利用して専用スタンドを安く作りますよ」と、案内して今回の専用スタンドをデザインする事になったのです。

 

現場でスタンドを組み立て

納品当日は太平洋側まで寒波が下りて来て山陽道の山間部は一面真っ白です。
朝の7時頃H.Oさんから電話があり、『瀬戸内大橋は通行止めですから岡山の宇野からフェリーで来るしかないですね』との事。瀬戸内海が雪で通行止めになるなんて聞いた事もありません。二便待ちでお昼頃にやっと高松に着きました。

ホーンから金っ気の音は充分出ているし、予算もあまりないという事なので、ローゼンクランツのインシュレーターを使わない事を前提としたスタンドのデザインを考えました。

3本の脚がベースの板を突き抜け、その頭の部分がインシュレーターになる形のスタンドに決めました。ロクロ加工が入るので加工費が高く今回は利益が僅かしかありません。私が神と仰いだ事もあるA5ですから、何としても良い音を聴いて欲しいという気持ちになってしまうのです。

 

脚となるメイプル材は根元の方から戸籍簿順に番号を打ってあります。上下、前後の響きの方向を管理した上で、後ろから前に流れるように加速度設置を施して組み上げます。

 

いよいよスピーカーを載せて音出しですが、読み通り素晴らしい音になるのでしょうか?。緊張の一瞬です。H.Oさんはジャズオンリー。それも寺島御大と同じでシンバル命の人です。

足場がしっかりし、スピーカーの発する振動を3点の脚でガッチリと受け止めるので、力感溢れるドラムの音とシンバルの音は炸裂せんばかりです。低い音の部分は楽器のイメージが出来なかったのに、今ではうねるようなベースの音が心地良く部屋の空気を揺るがします。

515ウーハーが軽やかに力強く空気を叩くこの感じは、代わりを成すスピーカーはありません。アルテックに憧れた若い頃の思い出が蘇って来ました。広い部屋がありさえすれば今にでも欲しい音です。

大成功です。

思わずH.Oさんの頬が緩みました。

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