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MBLもアバンギャルドもジャーマンフィジックスをも部品扱いにしてしまった奇想天外なスピーカー

初めて見る多面放射型複雑怪奇マルチスピーカー

ハイエンドショーの会場でR.Iさんとはお会いし、話しの中でMBLを使っていると知り、私もそれを持っているので是非お聞かせ願えればとなった次第です。R.Iさんはステレオサウンドにも紹介されたほどのスーパーマニアで、オーディオ仲間との交流も大変広い方です。又、デビルjyajyaoの秘密基地というブログをお持ちです。

伺ったのはその1ヵ月後の日曜日でした。首都高の渋滞を見越して早めに出たところ、拍子抜けするほどスイスイと走れて40キロ先の目的地まであっという間に到着しました。

R.Iさんのシステムの凄さについては充分に認識していたつもりでしたが、いざ生身で接するとその機材の数に唖然呆然。多弁な筈の私がしばし失語症に陥るほどでした。訪れた人には異口同音に”ジャングル”だと言われるそうですが、全く同感で、それ以外に他の言葉は見つかりません。

 

ここはドンキホーテの店内か?

オーディオルームとしては長手方向に6畳が2部屋繋がっていて、部屋のやや中央部にある一間の入り口部分の戸を外して、その開口部を利用して廊下部分に超低域を受け持つウーハーボックス設置。そこにイオンツイーター、リボンツイーター、そしてダイヤフラム型の3組を神棚みたいにして組んでいます。

システムの要となる中低音部はその間口の両袖に陣取っていますが、リスニングポジションから余りにも近いので、ワイドレンズメガネを掛けないと視界に入らないほどです。

 

このシステムが操作可能なのは組み上げた本人一人だけ

早速音を聞かせて頂きました。一番得意と思われるパーカッション系の音楽です。シンバルの音なんか本物とすり替えても分からないほどの音色と実在感!。スピーカーから絶対出る筈の無い音がしています。

それもその筈、そばに置いてあるシンバルを実際に叩いて、その音色を基準に音作りをするという徹底ぶりです。「トライ&チェック」、これ以上無い、とても理に適った方法です。そのテスト用シンバルと共に写っている二つのウーハーも地味に働いているのだそうです。

「うん?!、でも、何か気になるぞ!」。正面奥にビシッと定位しているものの、両サイドのアバンギャルドのホーン、ジャーマンフジックス、そしてMBLからも音が聞こえません。しかし、体を真ん中から外し、近づいてみるとどれも音は出ております。

 

ちょっと調整に問題があるのかなと思いつつも、これだけのバランス調整力があるのだから、そんなはずは無い。どこかに問題があるのだろうと私なりに原因探しを始めました。

すると、R.Iさんの『御免なさい!』の声が聞こえました。『左チャンネルの音が両チャンネルから鳴っていてモノラル状態になっていました』。実はdcsのコンバーターの設定が勝手に変わっていたのだそうです。これはよくあるんです。私なんかこんな難しい機械は触ろうともしないし知ろうとも思いません。それ位訳が分らない事が起こるんです。

『ハイ直りました!』

『これでステレオになった筈です』

「一気に音がシャワーのように降り注いで来ました!」

「これこれ!こうでなくっちゃ!」

「オーディオの枠を超えた未体験ゾーンへ突入しました」

この鳴り方はマークレビンソンのH.Q.D.システムを聞いた時に感じた音に似ている。しかし、今鳴っている音はその時以上に生々しい。オーディオ界に革命を起したあのレビンソンのH.Q.D.を上回る音といっても過言ではない音です。

ブームとして伸びたパイプのその先に取り付けたリボンツイーターはパイオニアのPT-R7でしょうかR9でしょうか?。文字通りシャワーのノズルと何ら変わりありません。これら工作物は全て自分の設計によるものとの事ですが、それもその筈、R.Iさんはバイクの設計が仕事だそうですからこの程度の物なら朝飯前なのです。

 

アイディアの宝庫

細かいところに目をやりますと、随所にオリジナルアイディアが発揮されています。部屋のコーナーには三つ葉の形をした反射材が・・、吸音材を使うのが世のセオリーとなっていますが、ここは絶対拡散に尽きます。その点に於いてもしっかりと自分の耳で検証した上で処置しているんですね。

壁と天井には拡散と吸音のバランスが程好いと思われるピラミッド型をしたケミカルグッズが貼ってあります。そのパターンはランダムと法則性が虚々実々の駆け引きがあるようでとても惹かれます。この隙間と密度の関係は恐らく直感なのでしょうが、それにしても見事です。人には見えない何かがR.Iさんには見えるのでしょう。

これまた同じピラミッド形ですが、ダイヤモンドカットクリスタルが紫外線の影響で紫に見えるのだろうか?。真空管アンプのトランスの上に鎮座しとても神秘的です。これは形状的にもトランスの振動を大気中に放出するメカニズムとなり、音の面でも大いに寄与している筈です。

 

有り難い事に、ローゼンクランツのインシュレーターを要所要所に使って頂いています。P-0sにも20万以上もする専用脚RK-P0が付いています。

 

 

オーディオのセオリーを根底からひっくり返す音

さて、R.Iシステムの心臓部とも言えるMBL101の下部には、TOAの46センチウーハーが裸で取り付けてあります。床に向けて鳴らすというよりも、ユニット裏面の凸型傾斜面が360°全方位に突き上げる方が効果としては大きく、またその波動はMBL101のラグビーボール形状の中低音部分と同じになり理に適っているのです。

更に箱による遮蔽物が無い分これまた自然な音になります。こうなると正相も逆相もあったものではなく、むしろこの入り混じる感じこそが一番自然なんです。この理屈はちょっと理解し難いかもしれませんね・・・。

頭で考える事ばかりが先行して、行動する中から答えを導き出せない人は実務で役に立ちません。何よりも結果を出す事が大切なんです。R.Iシステムの素晴らしさは、誰が何と言おうと、今鳴っている音が、その事実が、明白にその事を証明しています。

 

 

私にあるものは無いが、私に無いもの全てがここにはある

それにしても、なんと自由なんでしょう!。

唯我独尊、唯一無二、前代未聞、知行合一、百花繚乱・・・。 

どんなに言葉を並べても埋め尽くせない・・・

普段見慣れたオーディオシーンとは全くの別世界。どこからこの発想が出て来るんでしょう?。素晴らしいの一言です。私までワクワクして来ました。R.Iさんは少年の心を持ったまま50才を迎えてしまった未成長児のようです。

調整の行き届かない中途半端なマルチシステムだと、音の隙間が目立ち欠点がもろに見えます。しかし、これだけ物量攻めですと誰かに出番が必ずあり、その道のエキスパートが「今こそ俺の出番だ!」と誇らしげに個の魅力を振りまけばいいのです。一つだけ、敢えてこの多面放射方式の難しさを挙げるとすると、独唱におけるエモーショナルな表現です。

私は20年フルレンジ一筋に打ち込んでいますが、R.Iさんはその対極にあるものです。R.Iシステムの奏でる音楽は、豊富な色の絵の具の混ぜ具合によって立体的かつ写実的に描く絵画のようです。

一方フルレンジ1発で私の描く絵は精神を集中させ、一気に筆を走らせ緩急と強弱を描く墨絵の世界に通じるのです。

次は、カイザーサウンド東京試聴室の音をご体験頂く約束を交わしてR.I邸を後にしました。

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