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B&W802から信じられない素晴らしい音

H.Mさんは十代からのローゼンマニアです

H.Mさんは30代半ばですが、十代の頃よりローゼンクランツのインシュレーターを買って下さっている、バリバリのローゼンマニアです。6穴インシュレーター(PB-6)と、未だ試作レベルだったPB-REXを聴き比べた後に、REXを購入されたのが初めての事でした。その後3EXタイプのケーブルを全種類揃えたという、初志貫徹ぶりには二目も三目も置きたいところです。

サウンドフロアー(ハードメイプルの床材)を開発した時に、『その構造を教えて欲しい』と言って何度も電話をかけて来て、そのノウハウを吸収しようと尋ねるその熱心さと情熱が今でも印象に残っています。

東京試聴室には友達と一緒に来られた事はありましたが、私が彼を訪ねた事はありませんでした。久し振りに電話をすると、『自分も電話をしようと思っていたところでした!』とその偶然に驚いた様子で、ハイテンション気味に『自分の周りにもオーディオマニアが沢山いるので、顔つなぎに出て来ませんか?』と誘われたのでした。

H.Mさん宅の802は、マニアの方も認めるほど音楽性豊かに鳴っていると聞かされました。『ここまで来るには時間が掛かったけど、ローゼンクランツを信じて疑わなかった事がその全てです』と、感謝された時は嬉しい気持ちになりました。

 

恐ろしいほどの威力を持つハードメイプル床材

クリニックで手掛けたスピーカーの中では802がダントツの1位ですが、音楽性という点では簡単ではないスピーカーです。だから、彼の言う音楽性豊かというのがどんな音なのか?、想像出来ませんでした。

彼の家に着き、ステレオを置いてある部屋に入るなり、私は今までに経験した事ない気配を感じました。それは床一面に張り巡らされたハードメイプルの無垢木のフローリングが発しているエネルギーでした。

もう一つ目に飛び込んで来たのは、黒い大蛇がのたまう如く床一面を占拠している異様な光景です。その犯人というか、そそのかした張本人が他の誰でもない私でしたから、穴があったら入りたい気持ちになりました。

 

歴代の802の中で最高の音だった

最初に女性ボーカルを聴かせて貰ったのですが、正直言って信じられないほど量感たっぷりに鳴っているのです。802から絶対に出るはずも無い音が、今目の前で鳴っているのです。全ては床と3EXの極太ケーブルが為す音でした。

 

例えていうなら、堂々としたアメ車の乗り心地に似ているというのがピッタリでしょう。情報量や解像度は先ず先ずですが、ゆったりとしたアルファー波の出ているような心地の良い雰囲気ある音です。それは802のキャラクターと全く正反対の鳴り方なのです。ここまで変えてしまうものかと・・・、戸惑いを覚えました。

ローゼンクランツの802専用インシュレーター(RK-BW)を履かせてあるとは言え、この音はちょっと驚きです。過去にはサウンドステーションとセットでRK-BWを装着した数はかなりありますが、これほどまでの豊かさを得られた例はありません。床の違いが音を引き上げたのは間違いありません。

 

クリニックの開始

でも、私から見ると手を入れたいところは山ほどあります。その中でも特に気になったのが、音楽の流れの中に感じる微細な淀みです。この対策には電源ケーブルの配置換えによって解決を図ります。

同じ3EXですが、僅かな違いを見切って「加速度配線」にしつらえるのです。音を聴いただけで、どの線をどのように入れ替えるのかをメモして行きます。それをH.Mさんに手渡し自分で組み替えて貰います。

 

『何故、やる前から結果が分るのですか?』

すると、もっと生々しく何の屈託も無く、どこまでも自然に音楽が流れ始めます。埋没して聞き取れなかった弱音楽器の音も出現しました。

その結果に唖然呆然とするH.Mさん・・・。

『何故?、挿し換えして聴かないのに分るのですか?』。

「音の流れ方でどこの部分で失速して、どこで速度アップしているかが分るのです」。

膨大なステレオの音を聴き、処置して来た経験から徐々に引き出しの数が増え、「この傾向の音になる時は、疑がわしいのはこことここ」という具合に特定して行き、その音(病気)特有の症状を絞り込み特定していくのです。

要は確率の話で、未体験の症状に出くわした時は皆目見当が付かない事だってあります。しかし、最近ではどんなシステムの前に立っても平然としていられるようになりました。

 

側壁に立て掛けた三六(サブロク)サイズの板の方向性の是正

次に気になったのが左の側壁と右のガラス戸の反射の違いを嫌って立て掛けたであろうコンパネの響きの方向性です。事もあろうに上下と前後がことごとく反対です。しかしながら、反対ではあるものの左右とも揃っているので、それほどの違和感は感じなかったのですが、私の耳はごまかせません。

歌い手のメッセージが奥へと逃げて行っているのです。これを上下反対にクルッと回してやると、前後も自ずと入れ替わるので両方とも解決します。変更後は一気に流れが変わり、演奏が聴き手に向かってよく伝わって来るようになりました。いつの間にか部屋中に音が充満しているのでした。

私の全訪問暦全ての中で、H.Mさんのステレオが一番上手くセッティング出来ていました。

それが今回の一番の驚きでした。

お客様とはかくも有り難きものかな。

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