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ヤマハをスタインウェイ並みに大改造


 その音はスタインウェイ並みか?

 田中さんに電話を入れると、かねてより大改造中のヤマハG3グランドピアノが完成したから聞きに来いと言う。その音はスタインウェイ並みか、それ以上だと言うので飛んで行きました。お伺いすると、もう少しするとピアニストが来るようになっているから、楽しみに待っていてくれと言うではありませんか。なんという気のまわしようでしょう。

 20分もしないうちにやって来られた、その大庭さんといわれる方を紹介してくれました。もちろん田中さんや濱田さんと同じように調律もなさるらしい。手土産にイカの燻製を持って行ったのですが、『食べられるかなぁ?・・・』と大場さんご本人曰く、胃ガンで胃をすべて切除したそうです。

 大改造したピアノの音とは?

 話もそこそこに、その大改造したヤマハのピアノをやせた病み上がりの大場さんが弾くのですが、凄い迫力で鳴ります!。体力の衰えをカバーしようと、意識して強く弾いているのを差し引いても凄い鳴りっぷりです。とにかく音抜けが圧倒的によく、普段聞くヤマハのピアノの音とはエネルギーが全く違います。

 特に違うのは、何かに邪魔をされたような音の出方が無くなり、”天衣無縫”に音が出始めたことです。大場さんの言葉を借りると、『鍵盤に少し触れただけでも音が出ようとするので、指のタッチが慣れるのに時間が掛かりそう』と言う。それだけエネルギーが無駄なく伝わっている証明でしょう。

 私の場合は身近な位置でスタインウェイの音は聞いたことがありませんので、一概に体感による比較は出来ません。しかし、ヤマハの音は普段からよく聞いていますから、今日の音が如何によく鳴るピアノかと言うのは簡単に判断がつきます。


 サウンドベルの取り付け

 音を聴くのはそこそこにして、どの部分をどのように改造したのかを尋ねてみる事にします。今回のそれは大きく分けて二つの点にあります。その一つはサウンドベルの取り付けです。これは、ピアノ全体の強度を保つ鉄骨フレームの振動を、うまくピアノのボディーの部分に伝えるのに大きな役割を果たします。


 角笛の小型のような形をしており、音が次第しだいに大きくなるような形状とその構造は大変理に適ったものです。写真のようにガッシリと両者は連結されています。

 独立アリコートに変更

 もう一つの改造点は、独立アリコートと言って共鳴弦の長さと張りの角度を決める重要な役割を担う物です。普及型のピアノは20〜30cmの長さの連結タイプになっていて、他の弦にも振動が伝わり少しずつ音を濁してしまいます。


 アリコートブリッジをひとつひとつ独立させることによって、それぞれの音階の弦から滲みの無い澄んだ音を出すことが可能になるからです。それと、卓越した耳の調律によって生み出される倍音はミクロの単位で変化するものですから、連結タイプのアリコートではどうしても限界があります。

 濱田さんと田中さんの名コンビ

 これら二つの改造の基本的な部分を濱田さんが受け持ち、その後の総合的な音のプロデュースを田中さんが引き受けるといったコンビで仕上げられて行くのだそうです。このピアノもある作曲家の方からの依頼だそうですが、これだけ素晴らしい音を手に入れるには1,000万は掛かるでしょうとは田中さんの弁。

 ピアノと言う大変複雑で高価な楽器を庶民の手にもと言えば、こうしたコストダウンの為に出てくる音の犠牲は仕方ないものでしょう。しかし、そのような一般的なピアノを1,000万円クラスの音に変えてしまう技術とノウハウを持っている濱田さんと田中さんのコンビはすこしずつ口コミで広がっているそうです。


 
 ピアノの脚にインシュレーターを取り付けてみる

 今日の目的はもうひとつ、以前から頼まれていたことであり、私自身も楽しみにしていたことがあります。それは、ピアノの足の部分にローゼンクランツのインシュレーターを取り付けるとどんな音になるかという実験です。とりあえず、B&W用に開発したRK-BWを履かせて聴いてみることにします。


 慎重にピアノを持ち上げ、その足に付いている真鍮製のコロの下にそっとあてがいます。逃げないように座具っている訳ではありませんので、気を付けないと滑ります。何度か微調整をしてほぼ真ん中に載せることが出来ましたので一安心です。

 大場さん、田中さん、若いお弟子さん、濱田さんと交代で皆さん好奇心一杯で弾いてみておられます。床に直置きの時に比べると低い音がスッキリしていますので最初は皆さん迫力に欠けると思ったみたいですが、次第次第に音が変わって来始めた頃からは評価が変わって来ました。

 弾く人でしか分らない感想

 その迫力と感じていたのは床の不要な響きだったと言うことに気が付いたみたいです。一様に、”高い音に気品”が出てきたとか、音が”美しく澄んでいる”といった驚きにも似たものです。弾く人でしか分らない感想としては、”鍵盤の表面が丸くなったみたい”と言う人もいました。また、”ピアノがひとりでに歌い始める”といった感想まで出てきました。

 『昨日だったら良かったのに!』と田中さんが悔しがったのは、ヨーロッパで活躍している女性ピアニストがこのピアノの出来栄えに立ち会ってくれたのと同時に、ドビッシーの曲を弾いてくれてCDになると言うのです。

 『それにしても彼女は上手かったな〜・・・』。

 いつまでも、思い出してはウットリしている田中さんが印象的でした。

 こうしたピアノの大改造を目の当たりにしてしまった私は、普段研究しているステレオとあらゆる点で一致すると言う事が分かり、さらに「音のカラクリ」に意を強くする事が出来るのでした。


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