トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅軟弱な床でセッティングが拙いとハイエンドコンポは最悪を招く

軟弱な床でセッティングが拙いとハイエンドコンポは最悪を招く



 4畳半に超高級コンポ


 初めて頂いたお電話で最高級のケーブルをポンと買って頂きましたので、K.Sさんは正直ちょっと気になる方ではありました。千葉にお住まいなので何かの便の時には寄せて頂こうとは思っていました。

 何日か後、近くにアンプの調子を診に行く仕事が出来ましたのでお伺いする機会を得ました。築30年ほどのその部屋は洋間の4畳半ですが、最初に強い印象として私の目に入ってきた光景は高価な機材とケーブル達でした。

 デジタル機器関係はトランスポートがエソテリックのP0、クロックジェネレーターがdcsの992U、DDコンバーターとDAコンバーターもdcsのPursellとDeliusです。


 機材が優秀であるほど短所ももろに出る


 ソニーのSS-GR1というスピーカーも初めて見ました。最初に聞かせて下さった曲は'80年代に流行ったフュージョンです。正直良い音で鳴っていません。鈍重な低音とキツイ高音との二極にかい離している状態です。

 その上床が軟弱な為に、追い討ちをかけるようにあおり波をかぶっていますので、楽器の音なのか部屋の不要共振なのか判別がつかないほどです。エレキベースの音は床の共振音の方がスピーカーから本来出るはずの音よりも上回っています。

 ちょっとボリュームを上げるとエレキギターの音は鋭く耳を刺します。いくらなんでもこれはいけません。音楽を聴く楽しみより苦痛から如何に逃れるかに意識が向いてしまうほどです。

 隣の部屋のお母さんには、”うるさい”と疎んじられているそうです。それはそうでしょう、ご本人はいいかもしれませんが、この音を聞かされたら他人は大変です。


 良い音を提供する為には何をすべきか


 音楽鑑賞が好きな方とはけなげなもので、これだけ良くないコンディションの中からでも、音楽の持つ魅力の部分を汲み取ろうとする努力と耐性を持っておられることに驚きました。

 こうした声なき声にオーディオ業界人のどれだけの人が耳を傾けているのでしょう?。わたしは業界の人間全員で土下座しても足らないとさえ思いました。

 「いつもオーディオ機器はどちらのお店で購入されるのですか?」。

 「お店の方は納品に来て調子を見てくれないのですか?」。

 『この東京地区では安く売ってくれることはあっても、納品など考えても無いですよ!』。と半ばあきらめ口調です。

 『これでも今回カイザーさんから求めたケーブルで良くなったほうなんですよ・・・』。

 『ケーブルについてはどうやっても改善の兆しが見えないので、一切買うことをやめようと思っていたにもかかわらず、他とは何か違うものを感じたのでカイザーサウンドに最後の掛けをしてみようと思ったのが今回の買い物だったのです』と打ち明けてくれました。


 思った以上に音楽が見えて来た


 そんな言葉を聞かせられると腕をまくらずにはおれません。「ちょっと待って下さいね、出来る限り良い音を作ってみますから」。しかし、今日は私の都合でお邪魔していることもあってクリニック代金は貰えません。さりとて他のお客さんの手前もあり存分という訳にもいきません。ですから私の頭の中では特別に2時間という時間の中で調整させてもらう事にしました。

 音のパターンからしてこれ以上ない最悪のポジションにスピーカーと部屋の関係があるのは分かっているので、どう動かしても良くなろうとも悪くなることはありません。そう思うとこれほど簡単な仕事はありません。

 床の軟弱な時ほど当社のノウハウは生きます。今日の一番のテーマは空間の時間軸よりも「床の振動周期」に重きをおいて調整します。

 スピーカーの前後を合わせ次に幅の関係を合わせます。床とスピーカーとの間に関しては今日は何も用意していませんので、賞味スピーカーと部屋が織り成す音楽振動の一体感を突き詰める作業に終始します。

 運も助けてくれたのか、かなりいい音がするようになりました。”ぼわんぼわん”といった軟弱な床の音はどこかに消えてくれました。K.Sさんは私のように感情を表に表すタイプではありませんが、嬉しさをかみ殺すように『変われば変わるものですねぇ・・・』とちょっと、どもりながら感嘆の言葉を発しました。


 P0専用脚を聴いてもらいます


 P0の右前の脚ですが、上の傘の部分が2ミリほど本体から浮いているのに気かつきました。4点支持の為この部分でガタツキをとるのですが、本来脚の部分で調整すべきなのに傘の部分を緩めて調整しているのです。明らかに間違った解釈をしておられますが、これは音にとって相当な減点になります。

 その調整による音の違いを聴いて頂こうとも思いましたが、時間にも制約があり、またP0をお使いというのは事前に伺っておりましたので、今日はP0の専用脚であるRK-P0の試聴機を用意してあります。車まで取りに行き装着して試聴して頂きました。

 久しぶりにその効果の大きさにビックリしました。発売以来5年以上にもなりますのでさすがに普段はほとんど売れなくなりましたが、それでもボーナス時期になるとまとまって売れるものですから少量ながら今でも生産しています。

 これにはK.Sさんすっかり惚れ込み、即注文を貰いました。


 ソニーのSS-GR1のポテンシャル


 このスピーカーを眺め回すに良く考えられた構造になっています。フロントのラウンドバッフルと同じ形状の物が後ろにも採用されサンドイッチ構造になっています。前後の振動エネルギーが中央部で減衰するように出来ているのです。相当な理詰めの力作です。

 「これを私が本気でセッティングしたら凄い音が出るぞ・・・!」。

 「調教してみたい」、ひそかにそう思いました。






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