トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅DALI Helicon 400の魅力を引き出す

DALI Helicon 400の魅力を引き出す



 東京のS.Kさんから次のようなクリニックの要請を頂きました。


 ----- Original Message -----
 From: "S.K"
 To: <info@rosenkranz-jp.com>
 Sent: Friday, September 03, 2004 6:18 AM
 Subject: コンサルタントのお願い


 昨日、電話でコンサルタントをお願いしたS.Kです。

 来週末(9月11日か12日)に、できればお願いしたいと思います。
  1. 相談したいことは、
    • スピーカーのセッティング
    • 電源コードとインシュレーターの選択とセッティング
  2. 作りたい音は、ステージの奥行きと高さがわかる音
  3. 使用機器
    • スピーカー:DALIのHelicon400 + 村田103
    • センター・スピーカー:DALIのHeliconC300 + 村田103
    • サラウンド・スピーカー:KEF103
    • メイン・アンプ:Goldmund SR3.3
    • プリ・アンプ:Goldmund SR2.2
    • AVアンプ:7400
    • プレイヤー:マランツ DV12S2


  コンサルタントのお願い


 ----- Original Message -----
 From: <info@rosenkranz-jp.com>
 To: "S.K"
 Sent: Friday, September 03, 2004 9:59 AM
 Subject: Re: コンサルタントのお願い


 S.K様

 コンサルタントのご要請を頂き有難う御座います。
 音作りのご希望内容は大変難しいものです。
 しかし、当社が一番得意としているところでもありますので、大船に乗ったつもりで楽しみにしていてください。
 日頃培ったノウハウを精一杯駆使してご要望にお応えしたく思います。
 11日は予定で埋まっておりますので、12(日)13時ごろのお伺いでいかがでしょうか?。

 なお、クリニックに対して掛かる費用ですが、これといって決めにくいところがありますので、当日現場を拝見させて頂いた上で、色々ご質問を頂きながら、仕事内容と金額をご提案申し上げます。そのあとご相談の上で、また音が出来上がっていく過程でご判断して頂くのでも結構です。

 郵便番号 135-0045
 住 所 東京都江東区古石場2−14−1
 ウェルタワー深川606
 社 名 カイザーサウンド有限会社
 担 当 貝崎静雄
 TEL 03-3643-1236
 FAX 03-3643-1237
 携帯 090-2802-6002
 E-mail info@rosenkranz-jp.com
 URL http://www.rosenkranz-jp.com


 ナビ無しで目的地に着くには一苦労


 都心の一番混んだ新宿を通らなければならないので時間に相当余裕を持って出ました。また、今日の車にはナビが付いておりません。ナビ任せの運転に慣れてしまった私の脳はもはやそれなしでは生きていけないほどの依存症になっていました。

 指示待ち人間といいますでしょうか・・・、自分で考えて行動しようという意識が薄弱化してしまっているのです。

 導かれる声や画面上に示された矢印に従って、身を任せて動く習慣が付いてしまっているのですから、交差点毎の信号機に書かれた町名を見ながらですと、目的の町や番地を見過ごさないようにそれらに意識が奪われ、肝心な路面上の車の動きに対しての集中力が半減してしまうのです。

 便利な反面、「運転の総合能力は落ちたなぁ・・・」とつくづく実感しました。とは言え、東京の街をナビ無しで動くのは大変な事です。土地勘のないところではやはりナビはとっても重宝です。


 準備万端


 今日は何があってもいいように、車の中には「インシュレーター」、「電源タップ」、「ケーブル類」、「サウンドステーション」に至るまで色々と用意してあります。台車に積めるだけの物を積みエレベーターでS.Kさん宅へ参ります。玄関口で迎えてくださったS.Kさんは私と違って一目で紳士と判ります。

 いきなり目に入って来たのは重々しい感じの音響拡散パネルと物凄くデッカイソファーの二つです。これはプロレスラーかお相撲さんが座って丁度良いサイズです。このソファーによって一部分は蟹歩きをしなければ通れないぐらい狭いところがあります。


 音はかなりの重症です


 でも、何より肝心なのはご相談頂いたその音です。

 先ず現状の音をお聞かせ下さいますか?。

 かけて下さったのはエリック・クラプトンのアンプラグドです。

 これといって嫌な音はどこにもないのですが、一言でいうと「音が金縛り」なのです。その金縛り状態は今までに体験した事がないほどの状態でした。正しくは金縛りというより、八方から紐で引っ張られていて身動きが取れないようなイメージの音です。すなわち音に全く動きと流れが感じられないのです。


 集中力を総動員して頭の中で作戦会議


 私も初めて体験するような鳴り方ですから、仮にこの音を作れといわれても、今のところ再現性は私にはありません。でも今日は、また新しい事に出合った喜びの方が大きいのです。厄介な事ですが、挑戦意欲の強い者にとってはハードルが高いほどやる気が湧いてくるものなのです。また、一つノウハウが増えるわけですから。だからクリニック訪問は私にとっては勉強の連続なんです。

 「この音では、日々音楽を楽しめないでしょう?」。

 同情するような気持ちで感想を述べさせてもらいました。

 『そうです、聴いていて少しも楽しくありません!』。

 「ご安心下さい!」。

 「これから一つずつ見違えるような音にしていきますから!」。

 依頼主のS.Kさんの立場に立ってどんな鳴り方を要望しておられるのか?、持っておられるソフト、機材から引き出し可能な音、部屋の構造等、あらゆる情報を元に集中力を高めます。そこのピントが外れたらその時点で私の仕事は失格です。

 極論すればクリニックとはいえ、「物を動かすだけでお金を貰っている」わけですから。

 言い換えますと、誰が動かした何十センチよりも、

 私の動かした1ミリの音の価値が遥かに高くなければならないのです。

 わずか1ミリであっても、それは音にとって意味のあるものでなければなりません。


 クリニックの始まりは音響拡散パネルの使いこなしから


 そんな事で今日の最初の一手は、強力なエネルギーを持つ音響拡散パネルの使いこなしです。先ず最初はオーディオラックの上に置かれてある二組からです。方向性を確認し、1枚置き直しては聴いて頂きます。次は両サイドの背の高いパネルです。手前に付いている半分の高さの物が何かと悪さをしているので外した状態で聴いて貰います。もしも結果が悪いようであれば、いつでも元に戻せるわけですから気楽にやってみましょう。

 『一つずつ音が解放されていく感じがしますが、これは凄い変化ですね!』。


 押入れの引き戸


 これだけは早い段階で言っておきたいと思ったのでしょう。

 息子が途中で口を挟んできました。

 「実はこの押入れの引き戸の問題です」。

 「こちら側を手前にして閉めて頂くと、相当音が良くなりますけど試しても宜しいですか?」。

 『何故こんな事で、こうまで音が変わるんでしょう?!』。

 「不思議ですよね!、でも事実は事実ですから素直に受け止めましょう」。

 響きにくい扉と、響きやすく抜けの良い扉の順番が後先だったものですから、それを流れやすい順番に引き戸を組み替えただけなのです。この引き戸は部屋の壁に相当する部分ですから、スピーカーから出た音楽振動が聴き手に向かって響くのと、最初にあったように嫌々した状態とではこれだけの聞こえ方の違いとなって現れるんです。

 怖いですよね、響きの方向性とは?!・・・。

 もちろん最初の音響拡散パネルとて例外ではありません。上下が反対ですと高さ方向が出ないことになります。この製品は米松の無垢木を使った物ですから木の繊維がモロに効いてくるんです。特にこの木は松脂が出ますので、床との食いつきが良く使い方次第では最高のパフォーマンスを発揮します。最高の反対は最低ですから、あくまで使いこなしで評価がこれだけ変わるのです。もちろん向きだけではありません、設置の微妙な位置関係も重要なファクターです。

 「ここまでの仕事で紡ぎ出した音に対してのご感想と好みについては如何でしょう?」。

 『申し分ありません!、自分の好みの方向にピッタリです!』。

 「それでは両者の波動が合ったところで、この路線で更に能力を上げて行く方向で進めさせて頂きます」。


 リボンツイーターの魅力


 それにしてもこのスピーカー(ダリのヘリコン400)の音は品格を漂わせ素晴らしいですね!。リボンツイーターが効いていますね。あのインフィニティーの名ユニットEMITの音を彷彿とさせます。でも3つのユニットをこれだけ巧みに繋ぐネットワーク技術は耳の為せる業です。繋ぎヶ所が分らないほどスムーズです。ワイルドな音はちょっと苦手かもしれませんが、品性や格調高い音を好む方にとっては申し分ないでしょう。


 思いもつかないアイディア


 実は昨日あたりから私は風邪気味で体が熱っぽく調子がよくありません。

 息子に近づき「今日は体がきついから音の案内役こそすれ、実践は全部頼むな」と耳打ちしました。
 
 今日はルームアコースティックから攻めていますが、ここで一つ問題点が出てきました。ラックの上に置かれたダリのセンタースピーカーなんです。上も下も湾曲していてゴロリゴロリとロッキングチェアーのように動くのです。これは何とかしなければいけません。本来は同一メーカーのスーパーウーハーと直重ねで使うと、ビタッと合うようになっているそうです。

 そこで息子が考えもつかないような事を提案してきました。

 「立てて使いませんか?」。

 両サイドの面はどちらも平らですから安定しますよ。そうした場合、上下の湾曲した面が側面になりますので、サウンドスクリーン効果として使え、美しい響きを部屋中に放出させるメリットが生まれます。特にダリのスピーカーには良質の木が使われているのでその効果は絶大です。

 一休さんのとんちではありませんが、「橋を通ったのではない、端を通ったのだ・・・」。

 そんな感じのアイディアでした。

 早速実行してみますが、音は凄く良くなり申し分ありません。

 特に音が部屋中に充満するようになってきました。

 またその音質も、生に迫るような深々とした歌声に吸い込まれるような魅力です。

 しかし、100インチのスクリーンを下ろした時に掛かってしまうのが難点です。

 この案は没かな・・・と思っていたら・・・。

 『大丈夫です!1年後くらいにはプロジェクターを買い換えますから、

 その時にスクリーンの位置をもう少し手前に付け替えますので』というS.Kさんの断。


 本格的なセッティングに掛かります


 そろそろ、ここら辺りがお金を使わないで腕のみで音を良くする事の出来る限界ですね。

 これから先は当社の製品を使って機材の持っている能力を100%引き出してやれば見る見る良くなっていきます。

 現時点では実力の40%位でしょうか・・・。


 メインスピーカーのインシュレーター選択


 それでは4番バッターに良い仕事をしてもらう為のコンディション作りから始めましょう。

 この最近発売したばかりのインシュレーターPB-BIG BOSS(1個35,000円)を、

 スピーカーの下に前2点、後ろ1点の3点支持で受けます。

 6組のインシュレーターを最適に組み合わせ、

 音を聴きながら慎重に位置合わせをします。

 当然スピーカーの前後の「カイザーウェーブ」に合わせる作業と同時進行です。

 息子がスピーカーを動かす度にみるみる音が良くなってきます。

 「フー・・・」と大きなため息と同時に、一瞬にして音が突き抜けました。

 どうやら位置合わせは完了したみたいです。


 電源タップ「ナイアガラJr.U」の導入


 スピーカーが決まった後は電脳センターの電源タップ、野球で言えば扇の要に相当する第2の監督といわれるキャッチャーを決める作業です。この順番が当社のセッティングのセオリーです。今使っておられるのはフィルターが入っているタイプです。気になるのはタイミングが取れていないのと音の萎えです。それと関連して音楽の全体の流れが今ひとつスムーズでない点です。充分とはいえませんが、「ナイアガラJr.U」にすると音楽のテンポが目に見えるようにハッキリとしてきます。それと同時に一つ一つの音に力が漲ってきます。

 ここら辺りから一つ試みれば、音のグレードが向上してはバランスが少し崩れの繰り返しをするようになってきます。このタイミングでの判断が一番難しいところです。当然嫌な音も顔を覗かせますので、「試みた事が失敗だったのではないか?」という疑問が生じてくるのです。正しいか、間違いかの判断基準は音のエネルギーが上がったかどうかで判断すべきです。いくら聞きやすい音になったからといっても、音のレベルが落ちたようではどこかに問題解決出来ていないところが残っていると見るべきでしょう。

 今回のデメリット部分は、スピーカーが欲しがる食欲に補給路に問題があって追いつかない、そんなイメージの音です。それを解消する為にプリとパワーにリミティッドモデルのACケーブルに換えて聴いてみます。少しは良くなったのですが、これではこのケーブル本来の能力の1/3も発揮出来ていないような音です。もう一度振動対策面に目を向けましょう。


 問題なのはプリとパワーの直重ね


 機材の数の関係からなのでしょうが、ゴールドムンドのプリとパワーが直重ねで置かれています。

 これはいけません。両者の間にはワンピース型のPB-JRUを入れてやります。

 効きましたですネェ、音の分解能、S/N、ダイナミックレンジ全てに一皮も二皮も剥けました。

 恐るべしはゴールドムンドの音なのか?、ローゼンクランツのインシュレーターの性能なのか?。

 どっちでもいいでしょう!、これだけ結果が良ければ・・・。

 S.Kさんの顔は最初とは打って変わって笑顔笑顔です。


 インシュレーターの真打登場


 それほど重くありませんので、マランツのマルチプレーヤーにはPB-BOSSを仕込みます。基本どおり前1点後ろ2点の3点支持です。今まで試みた数々の効果と相まって、累乗倍に飛躍した音となって目の前に現れました。

 音楽が熱く語りかけてくるようになりましたですね。ここまでくれば最初に聴かせて頂いた時の音とはまるっきり別物です。S.KさんにとりましてはこのBOSSの印象が一番なのではないでしょうか・・・。


 音のまとめの最終章に向かって


 今のところ信号系のケーブルは手付かずです。この問題まで細かく掘り下げますとすぐには出来ないこともありますので、最終ランナーだけに眼を向けることにします。すなわちジャンパーケーブルとスピーカーアタッチメントです。先ず初めに157.5ミリのジャンパーケーブルを繋いで聴いて頂きます。カイザー寸法の良さが出たのでしょう。音楽にノリの良さと切れが出てきました。

 「続いて魔法のケーブル、スピーカーアタッチメントを聴いて貰いましょう」。

 「ちょっと待って!、その前にセンタースピーカーにインシュレーターを入れた上で聴いて欲しい!」。

 ここでもう一回息子からの要望です。BOSSまで使う必要はなくDADDYで充分です。音の足並みが揃った感じと共に、どこかに埋もれていたノイズが一気に減った感じです。ですからコーラスラインに代表される音の背景が幾重にも見えるようになりました。3連ラックですから良くも悪くもお互いが複雑に影響しあってしまうのです。

 やりたい事の6割方は出来た今回のクリニックとセッティングですが、最後の出番はやはりスピーカーアタッチメントです。あらゆる楽器を鳴らすのに最適な線径のケーブルを6種類ブレンドした物です。その長さは音楽のハーモニーの根幹を為す52.5ミリです。

 強弱、緩急、この二つの追随性の高さがあれば、瑞々しさ、渋さ、嬉さに、悲しさ等、あらゆる感情表現を完璧に描き分けてくれます。それだけの事をアンプで実現しようとすると1,000万円あっても不可能でしょう。これだけは断言します。そんな不可能に近い事を、たった5センチほどのブタのしっぽのような物がやってのけてしまうのです。手前味噌ではありますが、実に恐ろしいノウハウです。どなたもこれを機に、スピーカーアタッチメントに興味をもって頂きたく思います。



 S.Kさん宅でのクリニックはこれで完了したわけですが、莫大な量のソフトをお持ちですからその音の価値は普通の人の何倍もの価値となって帰ってきます。ステレオの音が単に良くなるというよりも、1枚1枚のソフトが素晴らしい芸術作品に生まれ変わるから価値があるのです。

 音は全体が馴染むのに少し時間も掛かるでしょう。

 その変化して行く過程を見守りながら楽しむ音楽はまた格別でしょう。

 それはS.Kさんお一人の楽しみでよいのではないでしょうか・・・。

 完熟した時点で、その感動を多くの方達に伝わるようにコメントを下さると嬉しいですね。


 クリニックに関して


 ----- Original Message -----
 From: "S.K"
 To: <info@rosenkranz-jp.com>
 Sent: Tuesday, September 21, 2004 6:34 AM
 Subject: クリニックに関して


 S.Kです。

 先週は、体調が悪いにもかかわらず、セッティングに来ていただきありがとうございました。

 この3連休は、どこにも出かでずに、ずっとCDを聞いていました。おかげさまで、楽しく音楽をきけるようになりました。特に、ボーカルとアコギの音に聞きほれています。(コンサルティングの希望どおりです。)毎日、XLOのエージングCDをかけていたので、音のバランスが良くなってきた感じがします。

 ただ、エンジニアの習性か、CDによっては、もっと良い音で聞けるのではないか?という疑問もでてきて、単純には音楽に没頭というわけにはいきませんでした。上記の文章を読ませていただき、60%の完成度ということで、やはりそうかと納得しました。ウィークデイの夜は、ゼンハイザーのH650を聞いていたのでCDによっては、高域の相違が気になっているのかもしれません。今後もご指導をよろしくお願いします。

 なお、私のメールに2点間違いがありましたので、訂正させていただきます。

 センター・スピーカー:DALIのHeliconC200 + 村田103

 サラウンド・スピーカー:KEFのKHT2205.2でした。

 それから、誤解があるといけないので書きますと、Helicon400のネットワークは改造してあります。定位を向上させるために、左右のスピーカーの位相が合うように、ツイーターとウーハーのつなぎがスムーズになるように定数変更をしてあります。量産部品のバラツキは、私にもわかりますから。

 貝崎さんの文章はすばらしく、また、順序と内容に間違いはございません。やはり、セッティングの基本が身についていらっしゃるので、順序と内容を覚えていらっしゃるのですね。このセッティングで年末まで楽しんで、また、音のグレードアップの方法をご相談させていただきます。

 文章を読んで、ソファーのことを書かれていましたが、やはり驚かれましたか。海外に住んでいるとき(20畳くらいのリビング)に使用していたものです。座り心地が良いので、船便で運んでテーブルとともに使用しています。音の邪魔になっていそうなので、日本の住環境にあわせて廃棄せざるを得ないかと考えていたところなので、助かりました。貝崎さんのセッティングのおかげで、しばらく生きながらえそうです。

 最後に、音をよくするノウハウに関して、世の中の人々が正しく認知して、貴社がますます発展することを祈願しております。


 デジタル周りを最高級にグレードアップ


 現時点で手に入る最高級デジタル機器にグレードアップされたのを機に、ケーブルのプランニングとセッティングを頼まれました。その相談を受けた時には正直自信はありませんでした。何故ならば、過去にそのクラスの機器をお持ちの方のセッティングを何回か経験した事がありましたが、私の満足行くレベルに達した事がなかったからです。


 その理由は、既に何百万円もするケーブルの頂点に位置する物で組んでいますので、お客様はその上は無いと思い込んでいる訳です。ですから私方の価格のケーブルなど提案出来るような空気ではないのです。はっきり言ってしまえば、今までに一度も私の思う仕事をさせて貰った事がなかったのです。ですから、ベストな状態でそのクラスの機器を鳴らした時の真の実力を私自身知らなかったのです。

 それが今回S.Kさんから、電源ケーブルに始まり、デジタルケーブル、そして、クロックケーブルまで任されたのです。しかし、当社のラインアップにはクロックケーブルは有りません。デジタルケーブルの設計時に下準備程度はしておりましたが、本格的に作るのは今回が初めてです。その為に、BNC端子を探してみるのですが、なかなか良いパーツが見つかりません。大半が何百円の安い物で、高級な物になるとEsotericのように一気にペアーで30,000円もして、そのあいだが無いのです。

 トランスポート、DAコンバーター、DDコンバーター、クロックジェネレーター、ルビジューム発信機まで入れると800万円近くもするセットです。へんなパーツを使うわけにもいきませんので、今回は思い切ってEsotericを使う事にしました。


 説明書には半田付けをする方法まで親切に書いてくれてありますが、その通りにすると片方が浮いてありますのでいつも共振にさらされる状態になります。そこで私は半島のように延びたスリットの部分をニッパーで切り落として使いました。

 4本の必要数に対して6本作ったのですが、1本は半田付けに失敗し再度付け直しました。すると如何でしょう!、全く使い物にならないほど音に差が出たのです。アナログ信号部ではなく、クロックケーブルですよ・・・。ルックス的には誰が見ても見分けがつかないほどに仕上がっているのですが、音の結果がそうなんですからどうにも言い訳は出来ません。デジタル伝送の恐ろしさを嫌というほど思い知らされました。半田の技術の差は想像を遥かに超えた形で出てしまったのです。集中力と気合でもって一発で決めなければいけませんね!。

 装着後の結果はこれまた想像以上の音が出て、S.Kさんには満足して頂けました。これだけの音のクロックケーブルをワンオフで終わらせてしまうにはあまりにももったいないので、これを機に商品化する事にします。

 近々発売致しますのでご期待下さい。


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